パワーは関係性に依存する。相手のパワーの強さを判断しているのは、あなたです。
パワーとは、仕事においての“力関係”といえばわかりやすいのでしょうか。職場でも、先輩や上司は、仕事の経験から、部下や後輩に対してパワーをもちます。しかし、たとえばchatGPTなどの新しいものの使い方は、新人のほうが上司や先輩よりもパワーを持つと言えそうです。このように、パワーは、関係性に依存しているわけです。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
ところで、私たちは初めて会った人に対して、無意識の内に、相手の見た目(年齢、ジェンダー、話し方、服装、態度)などで、自分より力が上か、それとも下かを分類する傾向があるといわれています。確かに、そこまで思わなくても、私自身も新しい取引先との面談で、対面した時に上から目線でプライドが高そうとか、親しげだけど手ごわそうなど、相手の話し方や態度から、無意識に分類していたように思います。
でも、これって誰でも自然にやっていることですよね。そんな印象を持ちながら、対話を続ける中で観察していく。相手のパワーは、どんなところが強くって、どの辺が弱いのかという具合です。
人それぞれが持っているパワーについて、今回はお話ししようと思います。
いろいろな経験の中で、相手のパワーに押しつぶされそうになったことって一つや二つ、いやもっとあるという方もいるでしょう。
いろいろなパワーがあったのではないですか?
仕事関係だけでも、上司、先輩、得意先の担当者、同僚など。人間関係があるところに、パワーが生まれ、仕事をしていくうえで、パワーバランスを図っているわけです。
パワーによるビックリ経験!
今でも覚えている経験では(1970年ごろの話になりますが)、職安(今はハローワーク)に行って雇用保険の手続きをして、失業手当をもらうために面談をしたときのことです。窓口の男性の担当官に「あんた、本当に働くの?もう子供が出来ていて、ただお金をもらいに来てんじゃないの?」と高飛車に言われた経験があります。今だったら、それこそパワハラで訴えられる話ですね。
この発言からみえてくるもの。
相手との関係性は、役割(相手は公務員vs私は無職)、ジェンダー(男性vs女性)、職位(担当官vsなし)、社会通念(女性は、家にいる)などから、相手は私よりもパワーがあると判断したのでしょう。
私の中から湧きあがるパワー
私はこの経験をどう捉えたのか。初めての経験だったので、まずはびっくりしましたね。なんでそこまで言われなければならないのかと腹立たしい気持ちにもなりました。
そのような相手の対応に怯まず「私は違います。仕事を探しています。自立して働く必要があるんです!!」と、真剣に仕事を探しているという強い意志を相手に訴えました。
担当官は、私が力強く言い返したことで、少しビックリしたように見えました。
相手は私の書類を眺めて「デザイナーって仕事は、この職安にはないね~。飯田橋の職安に行くか、自分で探したほうがいいよ。」と投げやりに言ったのです。私の働く目的が伝わったのか、先ほどの横柄な態度が、少し弱まったように聴こえましたが、本音は“口答えする女性とは、もう話したくない”と言ったところでしょう。
そのころの時代背景を振り返ると、
その時代は、女性が働き続けられる仕事は、今と違って学校の先生、看護師ぐらいでした。ほとんどの女性が事務職など腰掛の仕事をして、25歳までにはお嫁に行く世の中だったのです。
退職して結婚を予定しているけど、雇用保険だけもらいに来る女性たちがいたらしく、私も彼女らと同じに見られたのでしょう。どちらにしても、“ヒヨッコ”だった私なので、職安の担当官のほうがパワー(力関係)は強かったわけです。
でも、自分の意見をしっかり伝えたことは、意味ある行動だったと今でも思います。
2つのパワー
確かにパワーには、「外から与えられたパワー」と、「自分の中から湧きあがる内なるパワー」があるように思います。
パワーは関係性によって決まる相対的なもの。
周囲の人がどのようなパワーを持ち、それらがあなたのパワーよりも強いのか、弱いのかを、あなた自身が判断しているのです。私たちは、外から与えられたパワーに影響を受けやすいかもしれないですね。
でも、あなた自身が判断するパワーバランスが、いつでも正しいとは限らないのです。あなたの思い込みかもしれないから。
外から与えられたパワーとは
私のエピソードをお話ししましたが、パワーを生まれつき持っている人もいます。たとえば親が裕福だと教育や財産など、パワーは生まれたときから持っているわけです。でも、多くの人の場合、後付けではないでしょうか。
たとえば、会社では地位というパワーを得ます。その他でも、社会的地位のパワーとして、親であること、社会的アイデンティティに関連する特権(教育・ジェンダーなど)、お金のパワー、専門知識のパワー、言語能力のパワー、情報力・ネットワークのパワー、外見のパワー、多数派のパワー・・・などまだあると思いますが、少なからず、私たちはパワーを持ちます。
外から与えられたパワーを間違って使ってしまうケース
・管理職になって、どうチームをまとめたらよいかわからない時、パワーの使い方が分からずに間違った使い方をしてしまう。部下に対して自分の職権を利用してむりやり動かそうとしたり、相手に対しての劣等感から相手をおとしめる。これらは、パワハラやマウンティングといえます。まさしくパワーの誤用ですね。
・自分のパワー不足を感じた場合、女性や弱い男性に対してより攻撃的になってしまう。
・親には法的権限というパワーがあります。親のパワーで子供を思い通りに育てたら、子どもは一人の人間として尊重されずに、子供の可能性を無くしてしまうでしょう。
・復讐のパワーというのもあります。上司からハラスメントを受けて、自分が傷ついたからといって部下をいじめて優越感を得る。昔いじめられた人に、自分がパワーをつけたときに、腹いせに復讐をしてしまう。
・与えられたパワーだけが自分をよく見せてくれると考えてしまう。自己承認するために、与えられたパワーを使い、他者から承認されることだけに頼り、パワーを維持することに必死になってしまう。
ダイバーシティマネジメントより抜粋
与えられたパワーは、自分を盲目にする。
私たちはパワーを手に入れると、だんだんそのパワーに毒されてしまうことがあります。パワーの弱い人に自分がどれくらい影響を与えているかという自覚が鈍くなっていく。そして、自分のパワーは、与えられているものという自覚がなくなってしまうのです。
そうならないために、パワーのない自分でいる環境をつくり、そこで新鮮な人間関係をもつことです。たとえば、自分にとって新しい趣味やスポーツを始める・母国語でない言語を習う・学生となって学ぶなど、パワーを持たない、ゼロベースに戻れる場所を持つと良いと思います。パワーのない状況を経験することで、他者への思いやりをもてるようになります。
自分の中から湧きあがる“内なるパワー”を育てる
内なるパワーは、自分の内側で意識的に開発するパワーです。そして、先ほどのエピソードで話した、自分の意見を伝えた行動は、内なるパワーだったといえるでしょう。
内なるパワーには、人に影響を与える能力といった社会性、自分自身についての心理的洞察力、感情的知性(EI)などがあります。たとえば、迫害、偏見、戦争や、癌のような病気、困難な障害を乗り越えることで得た自己効力感によるパワーもあるようです。
・人とかかわり合い影響を与える能力、社会性(心理的洞察力、感情的知性、説得力)
・勇気、強い信念、自分より大きな何かの一部であるいう感覚、目的意識
・迫害、偏見、戦争、病気などの障害を克服するパワー
ダイバーシティマネジメントより抜粋
人生で起こる出来事に逃げずに立ち向かいながら、内省して生きていくことで、内なるパワーは育まれるのでしょう。そして、自分自身の信念や目的意識が明確になり、社会性を深めることであなたの内なるパワーは説得力をもたらすのです。
パワーをどう使うかが問題なのです。
パワーの善悪を決めるのは、それを使う人。何のためにパワーを使うのか。自分のパワーや、知性や富を、自分の優越感のために使うのか?それとも、自分のパワーを他の人たちに与えるために使うのか。
とかく、私たちは、自分より大きい人、強そうな人、きれいな人など、外見だけでも、そのパワーに圧倒されてしまうわけです。でも、大事なことは与えられたパワーで何を生み出すかです。あなたは、与えられたパワーで何を生み出しますか?
自分にとって何が大事なのか。立ち向かう信念、困難を乗り越えたという自信が、軸を強くしていくでしょう。そのような経験の中で、人生の価値や、人生の目的を見出すことができると、内なるパワーが湧きあがってくるはずです。内なるパワーは、他者に説得力で影響を与えることができます。
自分自身の中で、「与えられたパワー」と「内なるパワー」とのパワーバランスが大事になりますね。ひとり一人が2つのパワーを大切に育てながら、そのパワーを社会に役立てていくことだと思います。
ひとり一人が持つパワーを活かして、人生を豊かにしていきたいですね。まず、自分自身の内なるパワーを育てていきましょう。
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参考・引用文献<パトリシア”ティッシ“ロビンソン『実践ダイバーシティマネジメント』 訳:伊藤清彦・鈴木有香・鈴木桂子 日本経済新聞出版 2023>