時代を生き抜く3つの力

JSELは当協会の理念である「働くすべてのひとが、自分の可能性を信じ、自分らしく生きる実践力を育成する」ためには、以下の3つが最重要な概念であると考えています。

1.セルフエスティーム

自己肯定感

2.セルフエフィカシー

自己効力感

3.レジリエンス

精神的回復力

1.セルフエスティーム(Self-Esteem)とは?

セルフエスティームとは、日本語では「自尊心」「自尊感情」「自己肯定感」などと訳され、「自分の価値や能力について、自分自身は価値ある、有能な存在であると感じること、または態度」のことを言います。(なお、「自尊心」「自尊感情」「自己肯定感」などの言葉の意味は似通っていて、言葉の定義上、明確な違いは見られません)

セルフエスティームの理論は、心理学の分野において非常に多くの研究が行われてきていますが、1890年にアメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズ氏(*1)によって、「セルフエスティームとは一人一人の人生における失敗あるいは成功への願望に対する(実際の)成功の割合である」と定義づけられたことに始まります。

その後、1965年にアメリカのメリーランド大学のローゼンバーグ教授(*2)は「セルフエスティームは自己への正か負の態度」であり、「自分を「非常によい(very good)」ととらえていること、「まあ、よい(good enough)」ととらえていることという2つのとらえ方がある」と述べています。前者は、自分が他者よりも勝っていると考えるものの、自分が自分に設定する基準では不十分だと感じることもあるとし、後者では、自分を平均的な人間だととらえるが、自分が見たところ自分にはかなり満足しているという異なる2つの見方があることを示しました。

さらに1967年にカリフォルニア大学の心理学の教授であるスタンレー・クーパースミス教授(*3)が「セルフエスティームとは、人が自分自身に対して持っている態度によって示される価値についての個人的な判断であり、その言語的な報告および外部に表出された行動によって他者に伝える主観的経験である」と定義しました。

1969年には「セルフエスティーム研究の父」と呼ばれるアメリカの心理学者ナサニエル・ブランデン氏(*4)が「セルフエスティームの心理学(The Psychology of Self-Esteem)」を出版し、「セルフエスティームには2つの要素があり、それは「自分が有能であるという実感」と「自分は価値があるという実感」であると述べました。つまり「セルフエスティームとは、いわば自信と自尊の総和であり、それは人生の難問に対処する自分の能力(問題を理解し、それを解決する能力)と、自分が幸せになる権利(自分の関心や欲求を大切にし、それを擁護する権利)について、その人が暗黙のうちにどう判断しているかを反映している」と説明しています。

なぜセルフエスティーム(Self- Esteem)が大切なのか?

セルフエスティームを強く感じている人は、人生の上でうまくいっていることも、うまくいかないことも全て含めて、ありのままの自分を受け止め、「それでも自分は大丈夫」「自分には生きる能力があり、幸せになる価値がある」と肯定的にとらえることができ、自分自身を信頼・尊敬し、自己の可能性を信じ、人生において建設的な行動をすることができます。

例えば、何かで思うようにいかないこと、落ち込むようなことがあっても、絶望や敗北感に囚われてしまうことがなくなります。あるいはそこから早く立ち直ることができます。

または、仕事においても創造的になったり、大きな目標を持って、成功に向かって着実に努力をしていくことができます。

さらには、自分自身を信頼・尊敬し、自分の可能性を信じるのと同じように、他者に対しても、敬意や信頼を持って接することができるので、豊かな人間関係を築くこともできます。

このように、セルフエスティームは、自分の能力を存分に発揮し、豊かで幸せな人生を歩むための土台となるものなのです。

<参考資料>

*1 William James: “The Principles of Psychology” / 1890

*2 Morris Rosenberg: “Society and The Adolescent Self-Image” / Princeton University Press / 1965

*3 Stanley Coopersmith: “The Antecedents of Self-esteem” / W. H. Freeman & Company; 1st edition /1967

*4 Nathaniel Branden: “The Psychology of Self-Esteem” / 1969

* “セルフエスティームについて“/村松常司、鎌田美千代、佐藤治子、川畑徹朗/愛知教育大学保健管理センター紀要 Vol.2, p3-9/2003

* “自信を育てる心理学”/ナサニエル・ブランデン(手塚郁恵・訳)/春秋社/1997

2.セルフエフィカシー(Self-Efficacy)とは?

セルフエスティームに似た概念として、セルフエフィカシーという言葉があります。セルフエフィカシーとは、心理学者のアルバート・バンデューラが1977年に提唱した心理学の概念で、「自己効力感」と訳されています。

バンデューラによれば、セルフエフィカシーとは、「自分がある状況において、目標とする行動をどの程度成功裏に達成することができるかについての見込み感(*1/*2)」であり、「セルフエフィカシーほど人々の日々の生活で影響力のある重要なものはおそらく他にないだろう(*3)」と述べています。

また、セルフエフィカシーは自然発生的に生じてくるものではなく、以下の4つの方法によって獲得されるものだとバンデューラは述べています。(*4)

  1. 振る舞いを実際に行い、成功体験を持つこと(遂行行動の達成)
  2. 他人の行動を観察すること(代理的経験)
  3. 自己教科や他者からの説得的な暗示(言語的説得)
  4. 生理的な反応の変化を体験してみること(情動的喚起)

そして、セルフエフィカシーは、ある特定の場面において、当面の(一時的な)行動選択に直接的な影響を及ぼすだけでなく、そこで選択した行動遂行が長期的に影響を及ぼしたり、一般的な行動傾向にまで影響を及ぼすとされています。(*4)

なぜセルフエフィカシー(Self-Efficacy)が大切なのか?

セルフエフィカシーを持つことの重要性、効果についても、近年、多くの研究がされていています。

青山学院大学で組織心理学・経営管理論などを研究している林伸二教授は、「人と組織を変える自己効力」という著書の中で、以下のことを述べています。(*5)

「自己効力(セルフエフィカシー)は、モティベーションを生み、かつ高める最大の源泉の1つだと考えられる。」

「たとえば自己効力(セルフエフィカシー)の強さによって、物事への関心や取り組み方、目標達成意欲、求職活動や職業選択、教育訓練の効果、リーダーシップ・スタイルの選択・実行、職務業績、ストレスの知覚・緩和や病気治療の効果、さらには人生の成功や幸せの知覚などが変わってくることが明らかにされている。」

さらに具体的に、以下のようなセルフエフィカシーの効果を挙げています。

-自分のスキルに自信がある人は、自らの行動を律することができる。

-自分の能力を信じる人は仕事ができる管理者になれる

-自信がある人は積極的に挑戦し、努力し続けられる

-自己効力を高めると変化への抵抗感を緩和でき、変革に積極的に取り組むようになる

-自己効力が高まると、困難な目標達成の意欲も強まる

-自己効力の高い人は高い職務業績をあげることができる

このように、セルフエフィカシーをより強く感じることができることにより、直面する様々な課題に対して前向きに対処し、それを解決し、成長していくことにつながります。

<参考資料>

*1 “Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change”/Albert Bandura/Psychological Review (American Psychological Association) 84 (2): 191-215. 1977

*2 「セルフ・エフィカシーの強化が高齢者の運動継続に及ぼす効果――メタ・アナリシスを用いた予備的検討――」前場康介・竹中晃二/行動医学研究 Vol.18, No.1, 36-40, 2012.

*3 “Social Foundations for Thought and Action: A Social Cognitive Theory”/Albert Bandura/Prentice Hall; First edition, 1985

*4 「セルフ・エフィカシーの臨床心理学」 板野雄二、前田基成 編/北大路書房/2002

*5 「人と組織を変える自己効力」 林伸二 著/同文館出版/2014

レジリエンス(Resilience)とは?

レジリエンスとは、物理学の用語で「変形された物が元の形に戻る復元力、弾力」という意味の言葉ですが、最近は心理学の分野で「精神的回復力」と訳され、「困難・苦境・病気・不幸などから回復する力、立ち直る力」という意味として注目されるようになりました。

レジリエンスとは、イギリスで「児童心理学の父」と言われたRutter博士によって1985年に初めて示された概念であり,「深刻な危険性にもかかわらず,適応しようとする現象」と定義されました。(*1)

その後も、米国ミネソタ大学のMasten教授らが1990年に発表した論文(*2)の中で「レジリエンスとは,困難で脅威的な状況にもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果のことである」と定義づけたり、心理学者でコロンビア大学ボナノ教授も、2004年に発表した研究結果から、人には「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」があることを述べています。(*3)

日本では、早稲田大学文学学術院の小塩教授らが2002年に発表した研究の中で、レジリエンスとは「困難で脅威的な状態にさらされることで一次的に心理的不健康の状態に陥っても,それを乗り越え,精神的病理を示さず,良く適応している状態」と説明し、またその状態を導く心理的特性を「精神的回復力」と名付けました。(*4)

なぜレジリエンス(Resilience)が大切なのか?

レジリエンスとは「困難・苦境・病気・不幸などから回復する力、立ち直る力」です。人の一生において、常に順風満帆とはいかないのは自明のことであり、どんな人でも必ず、困難や苦しい場面、体験に晒されます。その時に、立ち直るのにどれだけの時間がかかるかによって、抱えるストレスの差には大きな違いがあり、さらに困難に対する対処の仕方や、その後の成果や人間としての成長にも違いが出ることは、誰にでも体験的に想像・理解ができることかと思います。

レジリエンスを持っている人は、仕事などのパフォーマンスにおいても、高い成果を出すことが言われています。2013年のダボス会議(世界経済フォーラム)では、これからの社会において個人のレジリエンスを高めることが大切だと指摘しており、この年の年次総会レポートの中で「個人のレジリエンスが高いリーダーの特徴は、いかなる逆境においても立ち直り、困難を乗り越える力量を持ち合わせ、その厳しい状況に適応して、チャンスを見出すことが出来る能力を備えている」と述べています。(*5)

また、レジリエンス、セルフエスティーム、セルフエフィカシーは、相互に強い関連性があります。

セルフエスティームとは、ありのままの自分を肯定的に受け止め、自分自身を信頼・尊敬し、自己の可能性を信じる態度であり、セルフエフィカシーとは、ある特定の場面において、自分にはこの課題に対処できる能力があると感じることですが、これらの「自己に対する認知」は、生まれた時から自然に備わっているものではなく、子供の頃から様々な経験を積み重ねていくことにより培われていきます。

それらの経験の中には、必ずしもうまくいくことばかりとは限らず、失敗したと感じて落ち込んだり、やる気を失ったり、立ち止まって動けなくなったりすることもあります。その時に、いかにそのような場面から早く立ち直って建設的な行動をしていくことができるかによって、その人その人のセルフエスティームやセルフエフィカシーを感じることの度合いにつながっていくのです。その時に、このレジリエンスを持っていることが重要になります。

逆に、セルフエスティームやセルフエフィカシーを強く感じている人は、レジリエンスも強いと考えることができます。「自分はこの問題を解決できる」と強く信じていれば、当然、落ち込むことがあっても早く立ち直ることができます。また、人生の上でうまくいかないことがあっても、「それでも自分は大丈夫」「自分には生きる能力があり、幸せになる価値がある」と強く信じている人は、困難な状況からも早く抜け出すことができ、それだけストレスを感じることも少なくて済むと言えます。

このように、レジリエンス、セルフエスティーム、セルフエフィカシーは、「ニワトリとタマゴ」のように相互に強い関連性があり、レジリエンスを持つことはとても大切なことなのです。

<参考資料>

*1 “Resilience in the Face of Adversity Protective Factors and Resistance to Psychiatric Disorder”

MICHAEL RUTTER/ British Journal of Psychiatry (1985), 147, 598-611

*2 “Resilience and development: Contributions from the study of children who overcome adversity”

Ann S. Masten, Karin M. Best, Norman Garmezy/University of Minnesota/1990

*3) “Loss, trauma, and human resilience: have we underestimated the human capacity to thrive after extremely aversive events?” /Bonanno, George A./ American Psychologist, 2004 Jan;59(1):20-28.

*4 “ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性–精神的回復力尺度の作成“/小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治/カウンセリング研究,35, 57-65. 2002

*5 「世界経済フォーラム 年次総会2013 レジリエント・ダイナミズム」 ダボス‐クロスタース(スイス)2013/1/23~27 http://www3.weforum.org/docs/AM13/WEF_AM13_Report_JP.pdf