無表情な若者たち

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の丸尾です。

日ごろは大学で学生と接し、キャリア教育に携わっています。

6月も中旬になりました。企業では新人が入社して3か月目ですね。

現場に配属された新人たちも、そろそろ職場に慣れてくる時期かと思います。

入社直後の緊張が解けてきた分、逆に気のゆるみが出たりする頃です。

そんな新人を受け入れる側、あるいは新人の教育担当になっている皆さんにとっては、新人の成長が気になってきていないでしょうか。

◆最近の若者に共通した特徴◆

大学で日々学生と接していると(といってもコロナ禍でずっとオンラインの画面越しではありますが)、ここ数年、学生たちの「無表情」が気になって仕方ありません。

新人たちと接している方も、気になったことはありませんか?

こちらが講義をしている時に無表情なのは、もうずっと前からそうなので、もはや諦めの境地なのですが(笑)、最近気になるのは、グループワーク中の会話の中でも全くの無表情の学生が増えたことです。

グループワークなのだから、自分に対してだって話しかけられているはずなのに、うなずくどころか、表情が一ミリも動かないという、まるで能面のような表情の学生が目につくのです。

それって、相手の話を聴く気がなく、ワークにも参加する気がないのか?とりあえず単位を取るために嫌々ながらこの授業を取っているだけなのか? 最初はそんな風に思いました。

でも、そんな彼らが授業後の感想コメントに書いてくることは、全く違うのです。

  • 「いろんな人の意見を聞けて、すごく勉強なった」
  • 「他の人の発表から考えさせられたし、面白かった」

しっかり内容を聞いていて考えや感情が動いている「みたい」なのです。

それなのになぜ、その時の顔にはその反応が全く出ないのか??

この謎を解くために仮説を立ててみました。

  1. 無表情な人たちは、表情が出ていないことに気づいていない。
  2. 無表情な人たちは、表情を出さないこと、人の話に反応をしないことを悪いことだとは思っていない。
  3. 無表情な人たちは、表情や反応を出さなくても、自分の気持ちや考えは伝わっていると思っている。
  4. 上記の1~3のような認識になってしまうのは、直接面と向かって相手と会話をするというコミュニケーションが減り、反対にSNSなどの非対面のコミュニケーションが増えているからだ。なぜなら、非対面コミュニケーションでは、相手の話に対して自分の表情を見せる必要がなく、また相手からそれを求められることもないから。

そこで、ちょっとこの仮説検証をするために、データを調べてみました。

総務省の平成29年(2017年)情報通信白書によると、若者世代のスマホ・SNSの利用時間の長さが顕著です。

「10代20代はスマートフォンの利用時間が長く、内訳をみるとSNSの利用時間が長い傾向がある。また、他の世代と比較すると「動画投稿・共有サイトを見る」の時間が相対的に長いことも目立つ。この傾向は休日になるとより顕著になり、SNSを10代は122分、20代は76分、動画投稿・共有サイトを10代は55分、20代は28分利用している。」(第1部 第1節 3.先進ユーザー「ミレニアル世代」の利用動向 より引用)

私の仮説は案外当たっているのではないかと思っていたある日、アメリカに住み大学講師をしている日本人の友人からこんな話を聴きました。

「最近のアメリカの若者たちは、無表情な人が多く、授業がやりにくい。同じクラスの学生でも年齢が高い人は表情が豊かでうるさいくらい反応してくるのに、若者はなんであんなに無表情なんだろうって思うんだよね。で、授業がつまらなくて聞いていないのかと思うと、リアクションペーパー(授業後のコメントシート)にはすごくしっかりしたことを書いてくるのよ。」

「えー!日本の若者と一緒じゃない!」思わず私は大きく反応しました(笑)!

私の中では、日本の若者の無表情は、日本の文化的背景の影響もあり、真面目であるとつい真顔になってしまって表情もあまり変わらないのかも?と、心のどこかでは思っていました。

でも、これまでの常識で、表情豊かだと思っていたアメリカの若者でさえも日本人講師から「無表情」と言われてしまうということは・・・。

そう!これはもしかして世界共通の若者の特徴と言えるのかも?という気になってきました。

もちろん、これはまだ仮説にすぎませんが、あながち外れてもいないように思います。

◆無表情な若者との接し方◆

さて、ここからが本題です。

では、そういう無表情な若者、職場における新人に、私たち先輩、大人世代はどう接したら良いのか、ということですね。

ポイントは2点あると思います。

1つ目は、「無表情でいることは意識して止めた方が良いことを伝えること」です。

「え?そんなこと、いちいち教えなくちゃいけないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、そうなんです。無表情でいる人たちは、それが周りに悪影響、ひいては自分にとっても悪影響を与えていることに気づいていません。

だから教えてあげないと変わらないのです。

大学でキャリアを教える時にグループワークを行うのですが、ここ最近は、まず「人の話に反応を出そう!」ということから教えます。

「大学でそんなこと教えてるの?」と驚かれるかと思いますが、そこから始めないと、グループワークが成立しなかったりします。

もちろん、教える際に「無表情でいることは良くありません」と悪い面に注目して、それを直すように伝えるのはNGです。

そんなこと言われたら、最初に「自分を否定されたー!」と傷ついてしまいますから。

だから、まずは「人の話に反応をすると、どんな良いことが起こるのか?」というところから、説明をして、それを実際にエクササイズとしてやってもらいます。

人の話に反応しないで聞いた時と、反応して聞いた時の話し手の感じ方を知る「傾聴のエクササイズ」です。

これをやってみると、どれだけ効果があるかが、たいていの場合わかります。その感覚を味わうという「体験」が必要なのです。

もう1つのポイントは、「自然に表情が出るようにするための声がけをすること」です。

表情と言ってももちろんネガティブな表情ではなく、ポジティブな表情が出るような声がけ「ポジティブストローク」を返すことです。

ちょっとしたことでも、何か1つ褒める、良い面を指摘するようにすると、さすがに照れながらもちょっと笑顔が出ます。

そしたらすかさず「今の良い表情だね!」ともう一押し。

そして、グループワークの時にも「他の人の発言に対して、意識してポジティブストロークを返していこう!」と声がけをして、そういう発言を少しずつですが、増やすような働きかけをします。

(とはいえ、すぐにはできないことも多いので、同じことを何度でも声をかけ続ける必要があります。)

このポジティブストロークをたくさんもらえると、自然と表情は無表情から穏やかな微笑のようなものに変わったり、何か声を掛けられた時に表情が出やすくなったりします。

何よりも、無表情が人がいるグループはたいてい話し合いが盛り上がりませんが、無表情が少しずつでも減るだけで、議論が活発になり、相乗効果として表情も出やすくなります。

無表情であるということは、これもあくまで私の仮説ですが、自己肯定感、あるいは自己効力感にも関係があるのではないかと思います。

表情が豊かな人は、自己肯定感、自己効力感が高く、無表情な人は、自己肯定感、自己効力感が低いのではないかと思います。

この仮説については、今後、検証してみたいと思っています。

以上の2つのポイントを心がけて日々学生と接しているわけですが、きっとこれは、職場における無表情な(そして多分、とっても真面目で誠実な)新人さんたちを育てていく上でも使える技ではないかと思います。

ぜひ試してみていただければと思います。