ポスト・コロナのいま、あなたのソーシャル・スキルを見直す必要性とは。
コロナも5種になりました。少しずつ落ち着きを見せてきたようにもみえます。ここまで来るには随分と長い時間がかかりましたね。その間に、私たちの大学生活や、社会人生活の日常は、孤立化や、PCの画面越しでの対話、マスクによって目元だけでのコミュニケーションなど、コロナ前とは異なる対応をすることになりました。
その影響なのか、最近のニュースで、コロナ前の社会にはなかったような”人にかかわる事件”が多くなったと感じます。人と人との「心の距離感」が薄れてしまったのだろうかと。コロナ禍によって、人とのかかわり方が変わることで、気持ちの受け取り方が前とは変わってしまったのかもしれません。
「これからの仕事のやり方は。人とのかかわり方は、どうなるのか。多様な人とのかかわりを考えるとなんとなく不安がある。」と思うあなたへ。その心の迷いは、あなたのソーシャル・スキルに揺らぎを与えています。
ポスト・コロナのいま、あなたのソーシャル・スキルを見直すためのヒントもお届けします。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
ところで、ソーシャル・スキルとは、社会の中で普通に他人と交わり、ともに生活していくために必要な能力をいいます。社会技能、社会的スキル、ライフスキル、心理社会的能力といった言い方もします。
WHO(世界保健機関)では、子供たちへの教育目標として、“ライフスキル”と命名されています。その要素としては、意思決定、問題解決、創造的思考、批判的思考、効果的コミュニケーション、対人関係スキル、自己意識、共感、情動への対処、ストレスへの対処が含まれています。子供たちの目標とされていますが、私たち大人が社会で生き抜いていくために必要な要素ともいえますね。
社会で生きていくうえで、このソーシャル・スキルは、必要なスキル。そして “幸福度”との関係性があるのです。
日本の子供の幸福度と社会的スキルに警鐘が鳴る
最近目にしたレポートで、『ユニセフ・イノチェンティレポートカード16 子どもたちに影響する世界 ―先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か―』に、日本の子どもたちの幸福度とソーシャル・スキル(この調査では社会的スキルとなっている)が、ともに低い傾向にあるという事実が報告されました。
2021年に刊行された『ユニセフ・イノチェンティレポートカード16』から抜粋してお伝えします。
「精神的幸福度、身体的健康、スキル」の3つの分野から考え、それぞれ2つずつの指標で分析したものです(*資料a参照)。その結果、日本は子どもの幸福度の総合順位(精神的幸福度,身体的健康,スキルの3つの分野の総合)で20位でした(38カ国中)が、分野ごとの内訳をみると、両極端な結果だったのです。
身体的健康の分野は1 位でありながら、精神的幸福度はワースト2位の結果となりました。
そして、学力・社会的スキルの分野は27位でしたが、その内訳をみると、学力の指標 (数学・読解力で基礎的習熟度に達している子どもの割合)では、日本はトップ5 に入っているのに、社会的スキルの指標 (子どもたちが人間関係の構築にどの程度自信を持っているか)では、日本はワースト2位だったのです。
一般的に、ソーシャル・スキルは、社会で他人と関係を築いたり、一緒に生活を営んだりするために、他人を尊重しながら、自分自身も尊重できる環境を作るために使われます。ソーシャル・スキルによって、他人とうまく信頼を築くことができ、生活に満足感を持つことができると、自分自身も自信が持て、セルフエスティームも高まり、幸福度が上がると考えられます。今回のこの調査の結果からは、幸福度とソーシャル・スキルとの相反する結果が注目されたと考えられます。
結果から見ると、学力の習得度が高いことは、うれしいことです。ここでいう社会的スキルは、人間関係の構築にどの程度自信を持っているかという指標でした。人間として社会で対人関係構築のスキルが低いということは、他者との関係性を築くための学習経験が不足で、自信がもてないと言えそうです。学力など個人の能力は、社会に生かすために使うものです。その能力を生かすためには、ソーシャル・スキルも同時に学ぶことが、大事なことだと思いました。
このソーシャル・スキルは、子ども時代はもちろん、おとなになってからも生活のあらゆる面で役に立つ可能性が高いスキルだけに、これからの日本の子どもの状況に関して気になる結果であり、手を打つ必要があると考えられます。
しかし、この報告の結果は、子どもたちだけの話ではないかもしれません。
コロナで在宅ワークや、オンライン会議など対人接触の機会が減少したこと、さらにコロナに罹るかもしれないという不安から、相手に不信感を持ってしまう。在宅とリモートでのハイブリットな働き方になった。コロナによって、いままでのソーシャル・スキルで対応できていないことが、自分自身に対しても、モヤモヤを感じる。環境に適応するハイブリットなソーシャル・スキルが必要になってきているようです。
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最近、組織の中で、なんとなく自分の考えや気持ちを安心して発言できないように感じるときがある。人とのかかわり方が、なんとなく、以前よりしっくりしないように感じる。
ちょっとでもそう思えたら、新たなソーシャル・スキルの必要性を考える機会を持ってみるのもよいですね。
人とのかかわりの中で、うまくいかないと感じるとき、ヒトは2つのタイプ 「“攻撃タイプ”か、“引っ込みタイプ”」のどちらかの傾向になるようです。自分自身もどちらかのタイプになるわけですが、相手もどちらかのタイプになります。
攻撃タイプの傾向は、自分の考えていることや感じていることをすぐに口に出す。相手の話にお構いなしに自分の主張をする。たとえば、言い負かされたくない、言い負かされてはいけない。人づきあいを試合や勝負ごとと捉える。相手に弱みを見せたら負けだと思う。
引っ込みタイプの傾向は、自分の考えていることや感じていることを口に出そうとしない。話す場面が来ても、声が小さかったり表情が暗かったりする。たとえば、言っても変わらない、どうせわかってもらえないと諦める。主張しなければならない時でも、主張が思いつかない。相手に合わせてしまう。
コロナ禍での不確実な環境に、自分のソーシャル・スキルがうまく適応できないと、自分自身を守るために誰でも、相手に対して強くでたり、逆に相手に対して消極的になったりします。”自分がどうありたいか”が定まっていないから、ソーシャル・スキルに自信がもてないのです。
心の中にどちらかの傾向がみえるなら、その心の迷いの原因となるものを見直すことをお勧めします。
自分に自信がもてない状態とは、自分のセルフエスティームが高まっていない状態といえます。
どうすれば高まるのでしょう。セルフエスティームとは、セルフは自分自身のこと、エスティームとは評価すること。セルフエスティームが高い状態は、自分自身を正しく評価することができている状態を言います。つまり、自分の良いところも悪いところも、得意なところも苦手なところも、ありのままの自分を認めている状態をいいます。
あなたのセルフエスティームを高めるために、ソーシャル・スキルでの心の迷いは、どんな時に感じたのか、どんな事柄だったのか、しっかり思い出します。
自分のソーシャル・スキルを見直すには、過去のうまく適応できなかった事例や、モヤモヤ経験の状況を振り返り、自分がどこで適応できなかったか、モヤモヤを感じたのかを突き止めることです。
モヤモヤが、新しい状況にどう対処したらよいかに迷っていたと気づいたとしましょう。
ハイブリットな働き方でのソーシャル・スキルを模索すると、たとえば、マスクはいつまで必要だろうか。上司とのハイブリットな仕事の進め方や信頼関係の構築の仕方はどうしていったらよいか。相手との距離感の取り方、今後の相手に信頼される関係構築の方法はあるのか、などがあるかもしれません。その時のソーシャル・スキルは、今までのやり方+信頼関係を強化するために、自分の非認知力を強化するなど考えられるでしょう。
その課題の一つ一つに対して、“完璧にやりきる自分”を無理やり目指すのではなく、自分が出来る最善のことを決めます。なぜなら、自分の得意な面もあるでしょうし、苦手な面もあるからです。自分自身が、自分を承認できる状態でいられるように、答えを出すことが大切ですね。得意な自分も苦手な自分も、どちらも自分らしさとして、受容することです。
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その上で、あなたの考えに相応しい、ソーシャル・スキルを再吟味していきましょう。そのためのヒントを書き出しました。
●ソーシャル・スキルには、対人関係を作る時に大切なものがいくつも含まれています。普段、あなたが何気なく行っていることも含まれていることでしょう。人とのかかわりといえば、誰もがよく知っている、声の大きさ、話す速度、表情やボディランゲージ、話し方などの、メラビアンの法則ですね。非言語の威力を忘れずに、かかわることが重要です。今の自分が意識することは何ですか?
●相互の対話を例で示すと、人と会った時に、相手の名前を言ってあいさつする。相手の目を見ながら話す。相手の話に相槌やうなずきをうつなど、基本的コミュニケーションスキルがあります。Zoomだと、目を見て話すことや、うなずきや相槌も、対面とは違いますね。zoomには、zoomのやり方があります。それらの特性を効果的に使うことを考えていない人が多いと感じています。
●お互いを理解しあい信頼を築くために、自分の考えや気持ちを話す、相手の話をしっかり聴く、わからないことは質問をする、問題を解決する、などもあるでしょう。質問することは自分の無知を見せるようで質問したくないという人もいます。でも、質問は相手にとって、自分の話に興味を持ってくれていると感じることにつながる行動でもあります。また信頼される話の聴き方はどうすればよいかは、あなたの態度が影響します。
●話す内容もソーシャル・スキルになります。たとえば「どう話すと誤解されずに理解されるか」「どんな内容にしたら相手に興味を持ってもらえるか」など知識をもって行動します。
●相手との信頼を築くための基本的態度があります。どのような相手に対しても受け入れる行動とは。相手を認める行動とは。相手に感謝する行動とは。相手を褒める行動とは。同意できることは同意する行動とは。この5つの基本的態度は、誰もが自分にしてくれたらうれしいと感じる行動です。
あなただったら、この5つの基本的態度に対して、どんな行動を考えますか?ちなみに、どのような相手に対しても受け入れる行動は、「笑顔で接する」です。
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コロナを経験した私たちは、ハイブリットなソーシャル・スキル強化に向けて、自分自身をブラッシュアップしていく良い機会をもらったのかもしれません。信頼関係のきずなをしっかりと繋いでいくために、自分は他者に対して、どうかかわっていくのかを考えて、行動していきましょう。
その行動の先に、私たちの幸福があると信じて進むわけですから。一緒に努力していきましょう。
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<資料a>分野指標
- 精神的幸福度(37 位)
- 生活満足度が高い15 歳の割合
- 15 ~ 19 歳の自殺率
- 身体的健康(1 位)
- 5 ~ 14 歳の死亡率
- 5 ~ 19 歳の過体重/ 肥満の割合
- 学力・社会的スキル(27 位)
- 数学・読解力で基礎的習熟度に達している15 歳の割合
- 社会的スキルを身につけている15 歳の割合
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参考文献:<公益財団法人日本ユニセフ協会『ユニセフ・イノチェンティ レポートカード16子どもたちに影響する世界―先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か―』(2021年2月刊行)><公立はこだて未来大学のプロジェクト学習「こころの科学について学ぼう―心と脳の科学の教材作成」のWebサイト>