変化の速い経済社会で「内省」は、「新しいスキル」と言われる訳
不確実な社会になって、学び続ける人が増えているように思います。生き抜く力を養うために。自己変革し続けるために。世の中のニーズを探るために。新しいスキルや能力を向上させるために。
人生100年時代をどう乗り切るか。生き残りをかけて、積極的に学ぶ姿が見えます。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
日本企業では、きめ細かな社員研修やスキルトレーニングなど、社員を育成する教育に力を注いできました。しかし、画一的な教育やトレーニングだけでは、時代に対応できず、1999年に日経連では「エンプロイアビリティの確立をめざして――従業員自律・企業支援の人材育成を」を提言しました。そして、社員一人ひとりは、人生100年時代を働き続けられるように、自ら成長するための学びを選択し始めています。
たしかに自己成長し続けることは、人生100年時代を働き続けるために、必須だと思います。
しかし、何を学べば良いのか? 私たちは戸惑いながらも、新たなことを学んでいます。
資格を取る、セミナーに参加して新しい知識を学習する、大学や大学院で専門分野を深める・・・。たしかに「新しい知識」を学ぶのは必要です。
でも「新しい知識」を学んでも、今は、すぐに「もっと新しい知識」が生まれてしまう時代だといえます。そして学習したとしても、実践しなければただの知識で終わります。学習の対象となる「新しいこと」が何であるかも大事ですが、「学習する能力」を向上させ、実践力を高めることも重要なのではないでしょうか。新しいことは変化してしまいますが、学習の必要性は変わらず存在し続けるからです。
今、求められている、学習する能力とは?
コロンビア大学 ティーチャーズカレッジの成人学習とリーダーシップの教授であるマーシックは「ビジネスはかつて、検証されていない、思慮をほぼ伴わない、定式的な方法の繰り返しによって繁栄していた。今日、いかなる地位の労働者も、自分自身、自分の仕事、そして自分と組織との関係性について、今までとは異なる、より深い考察をすることが求められている。そして、この不確実な新しいキャリアの世界も同様のことが求められている。」と述べています(Victoria Marsick, 1990, p.23)。
たしかに、目の前の仕事をこなすだけでは、自己成長は生まれませんね。かといって、検証するためにゆっくり振り返っている時間も取れません。もっと自分と仕事、自分と組織、自分と家族など関係性を深く考察していくこと、つまり内省することで、新たな気づきが見えてくるということなのでしょう。
今ある難問は、「内省」しながら学習する。
ダグラス・ホールも、学習について「職場にある日常的な人間関係の中で、困難な出来事や難問と向き合う仕事経験は、柔軟性や変化への対応力に富むため、現在の状況により適している。つまり経験からの学習は、現在の状況にマッチした方略といえる」と述べています (Seibert,Hall,Kram,1995)。
そして今、「経験学習の議論において必須のものとされてきた「内省」は、今日の変化の速い経済社会における「新しいスキル」として、先進企業で認識され始めている (sharman,1994)。」ことが確認されています。
コルブの経験学習モデルを例にとれば、経験を積み、経験の中でその後役立つエピソードを「内省」して、その経験を省察し「自分のセオリーにする(意味付ける)」、そして、「実践で活用する」ことで、自己成長していきます。
つまり、あなたが日々の「新しい仕事経験の中で、今まで経験したことのない困難や難題について深く内省し、どう適応していくかを考え、解決に向け行動する」このプロセスが、「新しいスキル」であり、学びになるわけです。
もちろん同じことを訓練しても、人それぞれの進捗は異なります。それは、その一人ひとりの経験は、あくまで経験から得た「未加工のデータ」で、そのデータをどのように解釈するかによって、その学びの意味も変わるということですね。私たちは、この「未加工データ」から「新たな自分のセオリーや方法」を学びとっていくということです。
「新しい学び」は、今経験している世界の中にある!
さて、内省(reflection)は、一般的には自分の考えや行動を深くかえりみることと辞書にありますが、ビジネスにおける内省は、経験において何が発生したか、それが何を意味するか、それに対して何をすべきかを絞り出し、決定していくことだと私は考えます。
例えば、「現状は〇〇だった、それまでに自分は〇〇してきたが、もう少し上手にできる方法は、何かあっただろうか?」と、より一層の効果をもたらすために、未来志向で振り返るということです。
他者を、他者の欲求を、そして自分自身を内省する。
ダグラス・ホールは、「他者や他者の欲求のみならず、自分自身を内省することも含まれる。実際に、自分以外に目を向ける能力や、自分が他者にどのような形で役立てるかに気づける能力は、ますます重要性を増している。内省を通じて経験の中から学習が得られる。とくに、困難な仕事やメンターや同僚との刺激的な関係性と言った経験について、それが当てはまる。関係性は、内省と独自の関連を持つ」と述べています。
いま、関係性の中で、内省する意味がある
言うまでもなく、仕事はコミュニケーションなしには語れません。私は、ダグラス・ホールとキャシー・クラムが提言したメンタリングが、不確実な時代の組織において、内省を生みだす絶好の機会と思い推進してきました。ご存じのようにメンタリングは、キャリア開発が目的です。関係性を中心として、組織の育成力を高めるため、互いの考えや、キャリアの方向性または課題など対話を通して、相互に内省し刺激を受け、学び合いが生みだされます。1on1も、本来上司が部下に対して問いかけることで、部下の成長を促しますが、同時に上司も部下を支援する中で成長するという構造を持っています。
ビジネスにおける内省のポイントは2つ。
1.多忙な生活の中で、[新たな経験を能動的に整理する]ために内省する。
例えば、あなたが新たな職務を手がけ始めた瞬間に、あなたの内省は、始まります。慣れていない多くの物事に直面し、あなたはあなた自身に多くの「問いかけ」を――つまり内省――するでしょう。例えば、状況を把握するために役立つような多くの質問を自分に投げかけます。“今ある経験に対応できることは何か、出来ないことは何かを整理することになります。または、あなた自身が適応する必要がある場合、自分はその能力があるかどうか自分自身(アイデンティティ)と向き合うことになります。” そして、自らの問いかけに答えを出すために、行動に移していきます。他者に、「どう適応したらよいか、教えてほしい」とアドバイスを求めるかもしれませんし、自分が出来なければ他者に依頼することも考えるでしょう。そして、速やかにどうするかを決定するはずです。深い内省は、限られた時間のなかで、どう物事を進めていくかを決めていくツールとなります。
2.[熱意ある探求心をもって難題に取り組む]ために内省する。
新たなチームで困難な課題をリードしていくとします。あなたの慣れ親しんできた仕事の進め方が、そのチームが慣れ親しんだ仕事の進め方、またはメンバーひとり1人の仕事の進め方との対立を生むことがあります。または、新たなものを創りあげていくうえで、今までの思考の枠組みを自ら新たに適応させなければならないこともあります。そのような関係性において深い内省は、自分の考えを他者にどう共有したら良いか、方法を考えながら行っていくでしょう。メンバーたちは何を欲しているか、何を危惧しているかなど内省することで、メンバーに問いかけ、メンバーの思考を捉え、欲求に気づくことができます。時に、会議での議論で、熱意ある意見の衝突は、その関係性の中から重要な問題点に気づく機会になります。
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つねに変化し続ける社会では、自分自身に問いかける能力(内省)は、答えを生みだす能力と少なくとも同程度に重要なものだと思います。
自分自身を内省することは、多くの方々が実践していることと思います。いま、自分以外に目を向ける能力や、自分が他者にどのように役立てるかに気づける能力は、ますます重要性を増していくでしょう。
関係性の構築は、新しいものを生みだす力であり、人間として生きるために無くてはならないものだと思います。そのために内省する力が、これからさらに求められると言えそうですね。
さあ、あなたは、内省する力をどのように養っていきますか?
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引用文献:<ダグラス・ティム・ホール(1996) 『邦訳:プロティアン・キャリア 生涯を通じて生き続けるキャリアーキャリアへの関係性アプローチ The career is dead – long live the career: A relational approach to careers』 亀田ブックサービス 2015年 尾川丈一、梶原誠、藤井博、宮内正臣 共訳>