メンタルを強くする内省の仕方。その鍵は、あなただけに聞こえる独り言。

私たちは、追い込まれたときや、ストレスがかかったとき、そして不安を感じたときに、頭の中で励ましの言葉や、責める言葉など、無数の独り言が飛び交います。そして、集中して仕事をしているときも、ふと気がつくと頭の中で別のこと考えていたり、はたまた昨日友人が言ったことをふと思い出して、ネガティブな深読みをしていることがあります。独り言といっても、別に声に出して言うわけではありません。あなたにだけ聞こえる独り言です。

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

この独り言ですが、あなたのメンタルを強くも弱くもさせてしまう厄介ものでもあります。メンタルを強く鍛えるためには、独り言の仕組みを理解して、あなた自身でそれをコントロールできるようにすれば、メンタルを強くする内省がうまく回りだします。

なぜ今回、独り言を取り上げたかというと、イーサン・クロス氏*の本のタイトルに引き寄せられたことがきっかけです。その内容に触れ、私自身の経験と重なることも多く、その経験を踏まえて”メンタルを強くする内省”をテーマにしようと思ったのです。

独り言のメカニズム

ある研究によれば、私たちの独り言は、声を出して1分間に4000語(ワード)を発するのに匹敵するという研究結果があります。アメリカ大統領の一般教書演説は、約1時間の演説で構成され、通常6000語ほどになるというデータから見ると、私たちの独り言は、ものすごいスピードで発していることになります。

さらに近年では、“脳が情報をいかに処理しているか”についての最先端の研究で、人間の隠れたメカニズムが解明されたのです。それは、1日は24時間、私たちが寝ている8時間を除いた約16時間の内、おおよそ5時間から8時間、私たちは、“今ここ”から離脱しているといわれています。

その離脱している時間に、私たちは過去の出来事や想像の世界、またはその他の内面への黙想へと、脳によって導かれているというのです。その時間、私たちの独り言は、ものすごい勢いで言語的思考を行っていることになります。

そもそも、なんで独り言をいうのでしょう。

子供が生まれると、「親から子供に」言葉が発せられます。たとえば、「良い子だね」「つらいことがあってもあきらめないのよ。」「友達と喧嘩してはだめよ。」「なんでそんなことしたの!ダメな子ね」などと繰り返し言うかもしれません。そういえば私の母は、「一人で自立できるように生きなさい。」と小さいころから繰り返し私に言っていました。

幼い子供の一人遊びを見ていると、おもちゃで遊び、人形と語り合いながら、「家に帰ったら、うがいと手洗いするのよ」「今日のおやつはドーナツだからね」など、親から言われたことを反芻して(子供の時は、声に出して)独り言をいって遊んでいますね。私たちは小さい時から、自分の周りの世界や自分の存在を理解するために、そして自分と他者の関係性を認識するように、心の声と対話しているのです。 

たとえば、子供が親から叱られたり、ほめられたことを 人形に同じように叱ったり、ほめたり言って聞かせています。ある意味、子供自身でこの世界の価値観などを学んでいるように見えます。自己成長する中で、自分の内と外の世界との関係を独り言(心の声)がつないでゆくのでしょう。

私たちは、新たな課題が生まれるたびに、独り言でそのプロセスを頭の中で実行し、方法を取捨選択することで、能力が磨かれて課題を解決する方法をシュミレーションして成長しているといえます。

大きくなるとさすがに、声に出して独り言は言わなくなりますね。でも、この営みを私たちは引き続き行っています。頭の中での言語的思考は、休むことなく一日中行われています。ただし、自分の意思通りコントロールできる場合と、できない場合の2通りがあります。

あなたの自信を奪い取る独り言―厄介もの

独り言は、たいてい内と外の世界をうまく機能してくれます。でも私たちが最も必要な時に限って、―――ピンチに追い込まれた、仕事でストレスがたまる、リスクが高まる―――緊張から感情が先走りすると、ネガティブなエンドレスループとなって、独り言は“厄介もの“に姿を変えてしまうことも多いですね。

この“厄介もの“は、たとえば、過去での失敗した出来事を蒸し返し、未来の出来事に対して不安な想像をさせます。猜疑心を持った批判的な言葉をささやきます。しかし、この声はあなたの感情が生み出しているものなのです。 

私の例でお話します。私が20代後半の広告代理店でアートディレクターをしていたころ、ある大手メーカーのキャンペーン企画を任されたときの話です。このプレゼンを絶対成功させたいと、気合を入れて準備して臨みました。プレゼンは、競合会社が順番にプレゼンを行うため、仲間と共に待合室に通されました。さて、私たちの番となり、部屋に入った途端!予想を上回る大きな部屋、そして得意先の偉そうな人数の多さに、度肝を抜かれてしまったのです。初めて任された大きなプレゼンは、私の想像以上の状況に、頭は真っ白、足はガタガタ、心はドタバタだったわけです。

こんな状況だと“厄介もの“が顔をもたげます。「こら、慌てちゃだめだよ」「駄目じゃないの、このままじゃ失敗だよ」などなど、やたら問題発言をしてくるわけです。突然の出来事によって、私の思考が停止して、感情が煽られてしまったことで起こりました。この出来事で私は、近視眼的な意識になって、周りが見えなくなってしまったわけです。

あなたを客観的に評価する独り言―冷静な相棒

その後、どうなったかというと、こころの中のもう一人が、「慌ててないで、落ち着いて!」「あなたはプレゼンするのよ」「あなたは準備してきたんだから、大丈夫。落ち着いて」「しっかり周りを見て、大きな声でしっかり」と、自分に言い聞かせるように語りかけてくれました。そう、冷静な相棒が声をかけてくれました。

私の中の「あなた」

冷静な相棒が、厄介ものをねじ伏せた瞬間でした。

気がつかれた方もいると思いますが、心の声は「あなたはプレゼンするのよ!」と言ったわけです。「私」ではなく、「あなた」と問いかけることで客観視することができ、冷静さを取り戻し乗り切れたといえます。

この方法は、じつは小さい時から、自分自身に問いかけることを何気なく行っていました。あなたも同じかもしれません。私は、一人っ子だったので、心の中での「私とあなた」という二人遊びを身につけたことが、自然と「あなた」の立場で「私」を客観的に見ることが身についたと考えられます。この二人称で語ることは、課題にぶつかったとき、”厄介もの”が登場しそうになったとしても、有効な対処の仕方だと考えています。試したことのない方は、ぜひ試してみてください。

厄介ものと冷静な相棒によって、メンタルを強くする内省の仕方

この独り言の”厄介者”と”冷静な相棒”をどのようにコントロールできるかは、メンタルを強化するために大いに重要なものです。厄介者が登場するときは、たいてい自分の認識と現実の間にギャップがあったときではないでしょうか。

メンタルを強化するためには、自らが状況をコントロールできると思えるようになることです。そのためにはまず、厄介ものがなぜ登場してきたのか、その時の経験を振り返って内省します。

たとえば私の例でいえば、感情が高まったのは、自分の想像を超えた現実に戸惑ったことから始まっていました。想定外の状況が、ネガティブループを呼び起こしたわけです。プレゼンの準備は万全でも、外の世界をイメージしていなかったことが、問題でした。

その失敗した経験を次回に活かすために、どう自分を適応させておくかが課題になります。たとえば、事前に相手先のプレゼン出席者は誰かなど、状況を仕入れておく。または、最初からプレゼンのイメージトレーニングも、大人数で想定しておくというのもよいですね。そうなると、シナリオの作り方も違うでしょう。このように、失敗した経験を客観的にケースとして振り返り、次への準備につなげることで、自分を強化することができます。

内省の力は、客観的に自分の経験を振り返り、自分を見ること。つまり、自分の適応力を強化すること。

自分への問いかけは、自己理解を深めることになります。「あなたは~」と自分に問いかけることで、”冷静な相棒”が客観的にあなたに問いかけてくれます。冷静にあなた自身を見ることは、あなたの課題を知る機会になり、あなたはそれを克服する機会、つまり自己成長することになり、あなたのメンタルは強化されることになるのです。

ほかに強化する方法としては、しっくりこなかったことや、いら立ちが感じられたときのネガティブな思いや感情をありのままに書くことも、有効です。その時の状況を映像化するくらい具体的に思い出して書いていくことで、その出来事全体を客観的に見ることになり、なぜその思いや感情を抱いたのかが、わかるようになります。この時大事なのが、他人のせいにしないこと。自分がどう振舞えばよかったのか、自分ができたことは何かあるかなど、自分事として取り組まれると効果的です。

内省することは、あなた自身を深く理解することになり、結果的にあなたのメンタルを強化する良い機会になります。

それは、あなたの自己効力感が力強くなることでもあります。前よりも強く。素敵なことですね。

参考文献:イーサン・クロス『Chatter「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』2022年12月1日 東洋経済新報社