今を超える力がほしい。「GRIT/やり抜く力」をつくるには。

GRIT(グリット)、すでにご存じだと思いますが、“困難にぶつかってもあきらめずに闘志を燃やし、努力し続ける不屈の精神力を持っ”という意味を表すようです。

たしかに、何があってもあきらめずに、努力に努力を重ねて人生を生きるということに憧れますが、さて自分は?…と思うと、「無理じゃないの!」と、こころの中で呟いている自分に出くわします。

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

GRIT(グリット)/やり抜く力は、アメリカの心理学者、ペンシルヴァニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授が提唱しました。 “才能がなければ、成功できないのか!”という自らの問いに、向き合い続けている人なのです。

たしかに、「無理だ」と、やる前からあきらめてしまうのは、生きている甲斐がありませんね。不屈の精神とまではいかなくても、今よりも“タフな自分になりたい”ものです。

夢のような「やり抜く力」を、どのように手に入れるのか。今回はこれを考えてみようと思います。

A rock climber is silhouetted against the evening sky as he rappels past an overhang in Joshua Tree National Park.

そもそもGRITって

アンジェラ教授は、やり抜く力とは、何年もの間、一生懸命に取り組み、その夢を実現する、マラソン選手のように粘り強い力を持っていること。そのような意味から、GRITと命名したのです。

GRITはどう生まれたの?

彼女が27歳の時に、経営コンサルタントという厳しい仕事から、自分がずっと興味を持っていた教師というもっと厳しい仕事に転職。ニューヨークの公立中学校で1年生に数学を教えた。数多くの生徒に小テストや試験を作って、宿題を出し、答案が戻れば成績をつけるという忙しい日々を過ごした。その経験の中で彼女は、成績がとてもよかった生徒でも、それほどIQが高くない子供もいたし、IQが高くても成績の良くない子供もいたことに気づいた。

教育においては、IQを重要と考える。でも、「IQだけで、優等生と劣等生の違いを測れない」ということに彼女は気づいた。このことから、どの生徒も十分な時間をかけて一生懸命勉強すれば習得できるということを確信した。 この気づきから、“できるようになる(長期的な目標を成し遂げる)のにIQ数値は関係がない”という仮説を得た。 

彼女は教師生活を経て、大学院に行き心理学者になり、複数の専門的な調査と研究によって「誰が成功し、それはなぜか」の仮説をさまざまな超・挑戦的な環境に置かれた子供や大人たちを研究や調査の対象にして検証していった。さまざまな分野の違う人について研究した結果、成功する人に、ある共通点を見出した。それは、社会的知性ではなく、ルックスでも身体的健康でも、IQでもなかった。

その共通点が、「やり抜く力」でした。4つの頭文字を取って、GRITと命名されたのです。

  • Guts(ガッツ):困難に立ち向かう 「情熱 or 根性」
  • Resilience(レジリエンス):失敗してもあきらめずに続ける 「粘り強さ」
  • Initiative(イニシアチブ):自らが目標を定め行動する 「率先」
  • Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる 「持久力」

成功する人は、やり抜く力が高いという結論に行き着いたのです。データが示したのは、才能があっても純粋に最後まで決めたことをやり抜けない人たちがたくさんいる。やり抜く力は、才能の高さとは通常関係ない、むしろ反比例さえするということ。

やり抜く力をつくる方法

<興味があることに打ち込む

やりたい!と思うことに邁進する。

好きなことって、飽きませんね。大変なことでもやり続けていけます。仕事のやりがいも、「この仕事が大好き」という情熱とつながっているかもしれません。

成功する人は、興味あるものに対して、もっと分かりたい、もっとうまくなりたい、もっと知りたい、もっとできるようになりたいという欲求が沸き立ちます。それにはどうやればよいのだろうかという情熱が継続しているのです。

ところで「興味」の研究をしている科学者たちが、この10年ほどで最終的な結論に達しました。「人は、自分の興味に合った仕事をしているほうが、仕事に対する満足度がはるかに高い」ことが、研究によって明らかになったのです。

興味が湧くかどうかは、内省によって発見できるものでなく、興味は体験する中で生まれます。興味を持てるものにすぐに出合うという幸運にめぐまれる人もいるかもしれませんし、すんなりと出合えない人もいます。さまざまな偶然の要素が強いかもしれません。

社会人になっても、自分の興味がわからない人も多いように思います。興味が湧くには、「やってみる」という行動があって、初めて動き出します。たとえば、外の世界と交流する、人事異動で新しい仕事と出合うなど、仕事以外で気になったことを始めるなど、新しいことに視野を広げ活動をすることで、自分の中の情熱を目覚めさせることにつながると思います。

そして、「もしかしたら、できるんじゃないか」「どうやったらもっとできるようになるだろうか」と物事を前向きに捉えるクセをつけることからやり抜く力は動き始めます。

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<成功する練習:小さな成功体験を積み重ねる

彼女の研究でわかったことは、やり抜く力の強い人は、弱い人よりの取り組む時間が長いのです。そして、その成功する人の誰もが、継続的な改良をし続けていくそうです。その改良の仕方は、漫然と練習を繰り返すことではなく、自分が成長するために何をどうしていくか意図をもって練習するという「意図的な練習」をおこなっていたのです。今よりもっと成功するための意図的な練習です。

意図的練習方法

  • 高めのストレッチ目標を設定する。
  • その目標に向けて努力し目いっぱい力を出して達成をめざす。
  • フィードバックを求める。他者からのネガティブフィードバックに対処することが目標達成に不可欠であることを知る。
  • 改善ポイントが分かったら目標達成まで繰り返し、できるまで練習する。

私も運動は好きで、日ごろから練習をしています。好きな運動は飽きないし、楽しい時間を過ごすことができます。でも、このような練習では、成長できません。維持はできても、成長できないんです。自分が目指すべき目標をクリアすることを繰り返していくことが重要です。いつもの仕事も、いつものようにやっているのではなく、もっと生産性を上げるには、働きやすくするにはなど、目標を自分で決めて、小さな成功をクリアして積み重ねるプロセスを味わうことです。成功するために努力する。失敗は成功のための一つのプロセスと考えます。

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<目的を見出す

“教会をつくる3人のレンガ職人の話”を以前ブログでお伝えしたことがあります。内容は、旅人が、3人のレンガ職人に「何をしているのですか」と尋ねた。1人目は、「生きるために必要なことだから、レンガを積んでいる。」2人目は、「もっと良い仕事に移るためのステップでやっている。」3人目は、「私にとってこの仕事は人生で最も大切なものの一つだ。」と三者三様に応えた。3人目のレンガ職人は、やり抜く力が強いと彼女は言っている。なぜなら天職と思って仕事をしているから。

確かに、自分の仕事に意義を感じられないなら、やる気も失せてしまいます。自分の仕事をどう見なしているか。どう捉えているかです。同じ仕事をしていても、心の中で、その仕事を卑下してしまう人もいれば、誇りを持っている人、天職とみなしている人もいますね。

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<希望を持つ

希望を持つとは、成功の可能性に対して希望を持つことです。成功をあきらめないこと。失敗したとしても、次にどう進めるかを考えること。つまり、“失敗は成功のもと”という考え方を持つことです。

彼女は、やり抜く力を育てるには、成功思考を育てることが重要だと考えたのです。成功思考は、スタンフォード大学のキャロル・ドウィックが見出したもので、“学習する能力は固定しておらず、努力によって変えることは可能だと考える

「どうせ、やっても自分は無理だ」というものの捉え方を変え、「やればできる」というマインドをセットするのです。*以前私のコラムでも紹介しましたね(2021.8ブログ『失敗することが多いあなたのための「成功できる方法」』)。

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やり抜く力をつくるには、

1.興味をもつ。自分自身の人生で情熱をもってやり続けたいこと、こだわりを持ち続けていること。

2.成功する練習。失敗したとしても小さな成功の達成をバネにやり続け、目標をクリアしていく持久力を持つこと。

3.目的を見出す。自分の仕事に意義を見出していること。

4.希望を持つ。成功を信じて、努力し続けること。

やり抜く力を手に入れるには、そうたやすいものではありませんね。でも、私たちは、日々の生活に追われていると、自分自身を見失ってしまうことが多いと思います。やり抜く力は、自分自身の興味に目を向けることから始まります。興味は、新たなチャレンジから生まれます。また、自分の生活や仕事の中にある普通と思っていることも、眺めなおしてみると、違って見えるように、自分の人生を内省することによって、自分のやりたかったことやこだわりも、見えてくるものです。

今日から、自分のやり抜く力を信じて、自分の興味あることに情熱をもち、小さな成功を積み重ねていきましょう。これから先の人生がどう変わるのか、楽しみになりますよ。

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参考資料:アンジェラ・リー・ダックワース:TED Talks Education 2013.5、TED speech  https://digitalcast.jp/v/17030/

引用文献:アンジェラ・ダックワース著 『やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』 2016 ダイヤモンド社