メンタルを強くするには、楽観性が鍵?! あなたの楽観性を鍛えるコツ。

 

今もなお、コロナの感染者数の増加に不安を感じ続けています。

そもそも人間は、日々の生活を習慣的に過ごし、おおむね予測可能な中で自動的に行動することを得意として進化してきました。コロナのような不確実で予測できないことに対処するのは、苦手で不安を感じてしまい、モチベーションや集中力も落ち込み、目的意識さえ見失ってしまいます。

ところが、このようなコロナ禍でも、偉業を成し遂げた素晴らしい人たちが活躍した一年だったのです。

Business concepts, possible or impossible

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

オリンピック・パラリンピックが1年延期され無観客での開催になりましたが、日本は選手たちの活躍で、史上最多の金27個を含む58個のメダルを獲得しました。またアマゾン創業者ジェフリー・ペゾス氏が宇宙飛行を成功させ、大リーグの大谷選手がピッチャーと打者という誰もやったことのない二刀流で大記録を残したなど、コロナ禍でもメンタルを強く保ち、偉業を成し遂げた人たちが誕生していました。

そのエンゼルスの大谷選手が11月15日の日本記者クラブでの質問に答えて、「ケガをしていたので、精神的にきついというのもあったけど、必ず投げられると思っていた。必ずよくなると思ってやってきた。不安はあったけど焦りはなかった」と答えていたのをニュースで聞いた時のことでした。

なんて楽観性に富んだ人なんだろう!」と思いました。が、私たちが理解する楽観性とは何か?違っているようだと感じました。今回のブログは、楽観性についての新たな知識をご紹介するとともに、それを鍛える方法をお伝えしようと思います。

さて、大谷選手が偉業を成し遂げた秘密は何だったのでしょうか。目標に向かって努力したから、あるいは信念があるとか、粘り強さなどいろいろな能力があるに違いありません。でも、不安な環境の中でも成し遂げるには、確かにポジティブに物事を捉える能力があったに違いないと思います。小塩先生の書かれた『非認知能力』で、楽観性の章に下記のようなサブタイトルがありました。

楽観性とは――将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力――と書かれています。

私たちが「楽観性」と聞くと、「将来、自分には良いことは起こり、悪いことは起こらないと考える」、つまり「ある意味、能天気な人」みたいに思っていることが多いかもしれません。じつは一般に言われる楽観性は、人間の誰でも持っている認知的傾向のことで、心理学では「非現実的楽観性」というそうです。 

例えば、ある調査から、日本人は、「日常が平和に暮らせる程度の良い出来事が自分に起こり、悪い出来事が自分に起こるはずがない」といった控えめで自己防衛的な非現実的楽観性が顕著だと考えられます(外山・桜井2001)。  

でも、ここで、お話ししたい楽観性は、「将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力」についてです。さっそく、考えていきましょう。

例えば、悪い出来事があなたに起こった時、あなたは他者にどう話しますか? 

人は良いことや悪い出来事を話すとき、楽観的な説明スタイル悲観的な説明スタイルかのどちらかで説明するとセリグマンは仮定しました(Seligman 1991)。 つまり、ものごとの捉え方のクセが、説明スタイルに出るといえます。

たとえば、自分に起こった悪い出来事に対して、

楽観的な説明スタイルは、自分以外に原因を求め (外的)、その原因は一時的なもので長くは続かないと考え (一時的)、その原因を特殊的な理由に求める(特殊的)という捉え方をします。

たとえば、楽観的説明スタイルの人は、部下がちっとも仕事ができないとき、「在宅ワークで仕事の方法も新しく変わったことが原因だろう、これは一時的なものだ、それに緊急事態によるものだった。」と、客観的で、事実に基づいて物事を捉えます。

悲観的な説明スタイルは、自分にその原因を求め (内的)、その原因がいつまでも続くと考え (永続的)、その原因を普遍的な理由に求める(普遍的)という捉え方をします。

たとえば、部下がちっとも仕事ができないとき、その上司が「私の力不足のせいだ、自分には人望がないのだ、上司として失格だ」と思ったり、子供の通信簿の成績が悪かったのを見た母親が「これは私の責任だ。ダメな母親だ」と思うのもそうですね。つまり、良くない出来事を理由もなく自分のせいにして考えてしまうことです。

逆に、自分に起こった良い出来事に対して、

自分にその原因を求め(内的)・永続的・普遍的に考えやすいのが楽観的な説明スタイルです。逆に悲観的説明スタイルは、自分以外にその原因を求め(外的)・一時的・特殊的と考えてしまいます。説明スタイルは、経験によって習得されていきます。とくに両親やその他の重要な大人の行動を見て育つことによって影響を受けると考えられています。

意識して、楽観的説明スタイルを活用して話すと良いですね。

まずは、ポジティブな表現で話すことが大事です。「出来なかった」ことに注目するのでなく、「出来た」ことに注目するようにします。以前お話したこともありますが、脳は、ネガティブな言葉を記憶します。私はダメな人間だと心に思えば、それが記憶に残ります。ものの捉え方をポジティブにすると、意識も変化して楽観性が高くなっていくはずです。

楽観性の高い人は、ストレスに強い!

じつは楽観性は、適応や精神的健康・身体的健康にも関連していることが多くの研究で示されています(Caever et al 2010)。そう考える理由として、ストレスフルな事態に陥ったときに、ストレスにうまく対処する力にあるという見解が有力と考えられています。具体的には、楽観性の高い人は低い人よりも健康状態が良いこと、免疫機能が高く、手術後の回復が早いことや風邪をひきにくいことが報告されるなど身体的健康にも関連していることが実証されているのです。

そのため「困難な状況に陥っても重篤な精神病理的な状態にはならない、あるいは回復できる心理的特性(石毛・無藤 2005)」と定義されるレジリエンスの構成概念の一つとして楽観性が取り上げられています。

楽観性の高い人は、目標達成しやすい!

楽観性の高い人は、目標達成を妨害するようなストレスフルな事態に陥っても、状況が「統制可能」と認知すると「目標を達成することができると期待する」ために、問題解決の方法やストレッサー(ストレスの原因)や、自分の感情を統制する対処方法で目標に立ち向かいます(Carver & Scheier 2002)。そして、目標に積極的に関与して努力するので、結果として、目標の達成に繋がりやすいといえます。  

状況が「統制不可能」だと認知した場合には、楽観性の高い人は、無駄に努力するのでなく、それらの状況を受け容れる傾向が強くなります。つまり、楽観性の高い人は、状況に対して適応的に目標への関与を使い分けているといえます。すなわち、状況に応じて認知処理や行動を調整する力が長けていることを示す研究知見が報告されています。 

また、アメリカの社会心理学者であるハイディ・グラントが、楽観性について述べています。

現実的楽観主義*の考え方はシンプルだが、その効果は極めて大きい。現実的楽観主義を実践するには、万事うまくいくと信じつつも、成功への道は容易ではないかもしれないという現実を受け入れる必要がある。

科学的研究が一貫して示しているのは、障害や逆境を前にしてモチベーションを維持するには、「ポジティブな期待」を抱くことが欠かせない点だ。そうしたポジティブな期待のことを、この分野を切り開いた社会心理学者のアルバート・バンデューラは強力な「自己効力感」と呼んでいる(Heidi Grant 2021)。(注:現実的楽観主義*とは、このブログで探求している楽観性を意味していると考えられる)

ハイディ・グラント・ハルバーソン(2021)「自分の脳について無知なままでは、不確実に対処することはできない」 ハーバードビジネスビュー

ハイディ・グラントが述べている「ポジティブな期待のこと」を強力な自己効力感とバンデューラは呼んでいるなら、先ほど述べた「目標を達成することができると期待すること」も、強力な自己効力感と呼んで差し支えないと考えられます。

つまり、楽観性を高めるには、「自己効力感」が欠かせないということになります。

楽観性は、変化し成長できる。

楽観性は、他の心理特性と比較して可塑性が高いことから、育成すべきものと考えられています。楽観性を高めることを目的とした介入やトレーニングが実施され、楽観性が向上したことによって、適応や精神的・身体的健康にポジティブな効果が見られたことが分かっています。

先述した楽観性と自己効力感との結びつきを考えると、自己効力感を高めることで、より状況が統制可能と認知しやすくなり、楽観性が高まると考えられます。 

楽観性を鍛えるには

楽観性を鍛える、つまり伸ばすには、毎日5分間「こうなりたい」と願う自己について、想像することを2週間行ってもらうというエクササイズがあります(Malouff & Schutte 2017)。この「こうなりたい」と願う自己を想像させたり書かせたりする方法は、他の方法に比べて楽観性を高める効果がより大きいことが示されています。

人生における成功の経験(頑張ってきたこと)を思い出しながら書き出し、具体的にどんなことをやったのか、その時の行動を振り返っていくことで、自分の能力や行動を再認識するというエクササイズです。成し遂げた経験を振り返ることで自己効力感が高まると考えられます。

3週間の期間で、一日二日で達成したいと思う目標を挙げて、この目標を達成するための進め方、つまり計画方法を書き出すというエクササイズです。計画して達成するという癖をつけることも有効のようです。自身の行動パターンや強みを自己認知する機会になりそうです。

これらの経験から自己効力感が高まり、楽観性が伸びることで、状況をより統制可能と自己認知できるようになるのでしょう。

最後に、エンゼルスの大谷選手の「ケガをしていたので、精神的にきついというのもあったけど、必ず投げられると思っていた。必ずよくなると思ってやってきた。不安はあったけど焦りはなかった」と答えていたことを思い出してください。

彼のメンタルの強さは、楽観性にあり! 目の前にある困難が「自分で統制可能である」と自己認知できたからだったんですね。あきらめずに、対処し続けたこと、そして自己効力感を高めたからこそ、今年の結果につながったのでしょうね。

2022年、あなたは、あなた自身をどう成長させたいですか。あなたが達成したいと思う目標を書き出して、2022年の準備をスタートさせましょう。スモールステップをひとつ一つクリアするごとに、あなたのメンタルも、楽観性も、成長していくでしょう。

わたし自身、2022年をどう成長させたいのかを考え、そして行動します!

引用文献:<小塩 真司(2021) 『非認知能力―概念・測定と教育の可能性』 ㈱北大路書房><ハイディ・グラント・ハルバーソン(2021)「自分の脳について無知なままでは、不確実に対処することはできない」 ハーバードビジネスビュー>

参考文献:<ハイディ・グラント・ハルバーソン(2014) 「正しい楽観主義、能天気な楽観主義」 ハーバードビジネスビュー>