ストレスから抜けだしたい―あなたのレジリエンスを高める方法。
コロナ禍での生活は、疲れましたね。コロナがこれからどうなっていくのか、まだ明確な未来は見えていませんが、“お互いによく頑張っているね”と互いの健闘を称えたいです。
今回は、コロナ疲れなど、ストレスからうまく回復していくために、「レジリエンス」についてお話しようと思います。このコロナ疲れから、少しずつでもあなたの心と体の回復に役立てたら幸いです。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
レジリエンス(resilience)という単語は、すでにご存じかもしれませんが、本来の意味は“変形されたものが元の形に戻る復元力や弾力性”という意味を持ちます。そこから、困難で脅威を与えるようなストレスフルな状況を経験したにも関わらず、うまく適応する過程や、能力、結果のことをレジリエンスというようになりました(Masten, Best, & Gramezy,1990)。
レジリエンスを知るには、ストレスを知る
コロナ禍という世界共通の課題に直面した今、その国の人たちの価値観や進め方など、ネット社会になったからでしょうか、世界の人たちのコロナ禍での営みを間近に見ることができました。世界の人たちもまた、粘り強くコロナというストレッサー(ストレスの原因)と向きあっているなあと思います。
コロナだけでなく、私たちの日常生活には、ストレスフルなことってけっこう多いですね。じつは、社会生活やライフイベントの変化で、新たな環境に適応し直すことは、私たちにとってストレスになることが分かっています。
あなたはどんな時にストレスを感じていますか?
たとえば、ホームズの研究で、5000人以上の患者の発病に関連したライフイベントを収集して、日常のストレッサー(ストレスの原因)を43項目選定し、それぞれ得点化した研究があります(Holmes & Rahe,1967)。
43項目のライフイベントを見ると、ストレッサー1位になったのが配偶者の死、2位は離婚でした。また仕事の再調整が15位、転職18位など。大きな環境変化や人間関係がストレスをもたらす要因になっています。
また、ストレスとは結びつかないと思える結婚であっても、7位と高く、夫婦の和解についても9位に。このように、私たちは、家族を失くすことは大きなストレスになりますが、家族を育んでいくプロセスもまたストレスをもたらす要因になるということです。
このように、新たな環境と出会うたびに、“適応し直すことに、ストレスを感じる私たち”と言えそうです。
ストレスは避けることが出来ないというなら、どのように対処して、どのように回復し、良い状態をキープしていくかが課題になります。そこで、レジリエンスの出番です。レジリエンスは、「困難で脅威を与えるようなストレスフルな状況を経験したにも関わらず、うまく適応する過程や、能力、結果」を生みだせるからです。
あなたはどのようにしてレジリエンスを高めていきますか?
レジリエンスはどう身につくのか、そしてどう高めていくのか、3つの視点で見ていくことにしましょう。
レジリエンスを高めるには
回復
人生の中で私たちは、困難な状況に直面したら、一時的に落ち込んだり、心身に何らかの問題が生じることもあります。かなり困難な状態から、歯をくいしばって耐えているうちに、少しずつ回復している自分に気づくこともあったはずです。このような経験からレジリエンスがついていきます。
精神的なことだけでなく身体も関係しています。たとえば、運動部に入ったとします。基礎体力がまだない時は、「グラウンド〇〇周走り込み!」と言われて、走れない人もいるし、ヘトヘトになりながらやっと出来た人、そして難なくできた人もいます。人の特性は人それぞれ。ですから、最初は出来なくても継続していく中で出来るようになり、自己成長を感じ取り、次の成長に向けて自ら活動するというサイクルで、レジリエンスが促進されます。
運動能力の高い低いにレジリエンスが関係するわけでなく、運動やスポーツを行う中で“自分の身体的な側面の変化に気づき、他者との比較でなく、自分自身に対して肯定的な評価を高めていくこと”が、レジリエンスを促進させる上で重要だと考えられています。スポーツに限らず、仕事においても同様の捉え方でレジリエンスを促進させます。
崩れにくさ
また、逆境状況でもストレスに陥らない力もレジリエンスと考えられます。
2001年のアメリカの同時多発テロの1か月後に、マンハッタンで行われた調査では、人口の約1割の人たちがPTSD症状などの症状を示していたのに対し、4割以上の人たちは、PTSDの症状をひとつも示さなかったことが報告されました(Galea et al.,2002)。この調査では、この4割の人たちのように、PTSDになってもおかしくないような衝撃的な出来事にさらされたとしても、精神的に崩れずに日常生活を過ごせる力が、レジリエンスとされています。
崩れにくい人たちのレジリエンス要因とは
こうしたレジリエンスを示す人たちの共通した要因は、未来への期待を維持するための楽観性、出来事をリフレーミングするための認知的柔軟性、出来事のネガティブな影響を最小限に抑えたり、他者に助けを求めるためのコーピングスキル(ストレスへの対処法)、活動できるための身体的健康、孤独にならずサポートを得られるための社会的支援ネットワーク、利他的行動や人生の目的を持つことにもつながる道徳心、と言ったレジリエンス要因を持っていることが明らかにされています(Iacoviello & Charney,2014)。
やってみなくちゃ分からない、何とかなるだろうという前向きな姿勢、出来事に対して前向きな解釈で捉え直せる、ストレスの対処法をいくつか持っている、自分が大事にしたいことが明確であるという3つのことって大事になりますね。
適応していくプロセス
厳しく困難な状況に陥ったら、まず“安全な環境を保持する”こと、そして“支援を得ること”から始めることが大事になります。一人で頑張らない、人の力を借りる勇気をもちましょう。
心理的安全性が担保され、厳しい経験を客観的に見つめ直す準備ができれば、困難から立ち直ることに繋がります。さらにその経験を自らの認知、信念、行動を自分なりに意味づけすることで、ゆっくりと自分の人生の物語に再構成して語っていけるようになります。自分の中で自分の人生ストーリーができた時に初めて、未来に向けて進んでいく準備ができていくとされています(Herman,1998)。
ストレス反応を少なくするには
レジリエンスは、一人ひとり、困難に対する対処は異なります。同じ出来事が起きたとしてもその受け止め方は人それぞれです。その出来事をどのように認知して評価するかで、次の行動が変わります。
出来事に対するストレス反応を少なくする要因としては、感情をうまくコントロールすることができる、将来をポジティブに捉えられる、忍耐強く物事に対処しようとするといった個人的心理特性があります。
個人を取り巻く環境からの影響としては、良好な人間関係、仕事以外のプライベートな他者との良い関係性、住んでいる地域の安全性や家庭環境などからも、レジリエンスは形成され、そしてレジリエンスは変化することが知られています(Lepore & Revenson,2006)。
あなたのレジリエンスの強みを見つけるためには、もしかすると一人で活動するだけでなく、集団による協働も必要かもしれません。他者からのフィードバックで、あなたの強みが発見できる可能性があります。
最後に、アメリカの心理学会が提唱しているレジリエンスを高める要因をご紹介します。
レジリエンスを高めるための10の要因
- 他者との関係性を築くこと
- 危機を乗り越えられない問題であるとは捉えないこと
- 変化を生活における一部分として受容すること
- 目標に向かって進むこと
- 断固とした行動をとること
- 自己発見の機会を求めること
- 自分に対してポジティブな認知を持つこと
- 事実を全体像の中でとらえること
- 希望に満ちた見方を持つこと
- 自分自身を大切にすること
このレジリエンスを高めるための10の要因を読まれてどう思いましたか?
わたしは、10の要因から、自分のものの捉え方に対して柔軟性をもつこと、また物事を前向きに捉えることで、困難な状況に巻き込まれなくなるように思いました。
その上で自分の人生を自分で築くんだという自律的姿勢が大切だと感じます。困難な出来事が目の前に来た時、過去の困難を乗り越えてきた経験―自己効力感―を振り返り、”まずやってみよう“、“やればなんとかなる”と行動する。そして、他者との関係性を築き共に生きていくことが、レジリエンスを高めるチャンスになると思いました。
思うようにならない今の時代は、ストレスを感じやすく、自分の内側を見つめ直すことに集中しがちです。しかし、そんな今だからこそ、レジリエンスを高めて、ストレスから抜けだしていきましょう。
引用文献< 編著者 小塩真司、平野真理、上野雄己(2021)、『レジリエンスの心理学』 株式会社 金子書房> 参考文献<編著者 石丸昌彦(2016)、『今日のメンタルヘルス』 一般財団法人 放送大学教育振興会>