「いやなことは忘れよう」と意識するほど 脳は「それを覚える」のです。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
過去の嫌なことを忘れたい!
突然ですが、「ありのままの自分を100%受け入れられますか?」と聞かれたら、どう答えますか。正直、自分を好きと思える時もあるけど、嫌いと思える時もけっこうある、と答えてしまう自分がいます。人生の中で、自分の選択を後悔したり、約束を守れなかったことへの罪悪感、相手から嫌われるのではという恐怖など心が揺らぐことが、いくつか浮かんでくるのではありませんか。
その時の自分の行動を振り返って「ああやればよかったのに、しなかった自分」を責めてしまう。そんな感情が心に残っていると、過去の嫌な出来事に囚われているあなたのセルフエスティームは、低空飛行を維持してしまうのです。
忘れようと思えば思うほど、忘れられなくなる
過去のできていない自分のことは忘れるんだ!と思っても、決して脳は忘れることはできないのです。そして完璧で、完全無欠の自分なんてありえません。できている自分も、できていない自分も、その丸ごとが「ありのままのあなた」なのですから。忘れることを止め、自己理解を深めることで、いやな過去を自ら完結していくヒントを、お話ししようと思います。
じつは、いやな過去を心から忘れようと努力しても、どうしても忘れられなくなるのです。それについて、ダニエル・ウェグナーが「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という現象を説明した皮肉過程理論があります。
シロクマ実験で分かったこと
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ダニエル・ウェグナーの「シロクマの実験」と呼ばれる研究があります(1987 D.Wegner)。シロクマの1日を追ったドキュメンタリー映像を3グループに見てもらい、その後3グループにそれぞれ異なる指示を出しました。
Aグループには、「シロクマのことを覚えておいてください」と言い、Bグループには、「シロクマのことを考えても考えなくてもいいです」と言い、Cグループには、「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と言いました。その後一定時間が経った後、彼らに映像について覚えているかを尋ねたところ、最も映像について詳しく覚えていたグループは「絶対に考えないでください」と言われたCグループだったのです。
なぜ、そんな結果になったのか、解説しましょう。「シロクマを絶対考えない」ように、自分でコントロールしなければならなくなると、自分が「シロクマのことを考えていないか」を脳がチェックすることが必要になります。「シロクマのことを考えていないか」をチェックするには、常にシロクマのことを意識しなくてはなりません。考えないでおこうという意識が、逆に考えさせてしまうというわけです。
囚われを手放す
過去の嫌な経験は忘れようと思っても、それに囚われている間は忘れられないことになります。その囚われを手放すこと(完結)で、初めて忘れることができるのです。過去を完結するには、過去の事実をありのままに振り返ります。ただし、振り返るときは、「あなたの過去の経験は失敗ではなく、あなたがその時できた最善の行動をしている」ということを忘れないでください。その上で、今のあなたが、客観的に振り返ると、その時自分がどう行動したかったのか見えてくるでしょう。
客観視することで、自分の「ありたい姿」が見えてきます。次に同じことが起きたら「こんな風に行動しよう!」「こうしたら良いのだ!」と、事前にどう行動するかを自己決定しておくことで、あなたの「ありたい姿」に近づき、ありのままの 自分が表現できるようになります。
If-thenプランニング
「やるべきことが多すぎるとパニックになってしまい分からなくなる」、「周りの人たちが気になって判断できなくなる」、「嫌われないように意識してしまう」こうした意識では、セルフエスティームが低空飛行しています。そんな事態に対処する方法として、「if-thenプランニング」と呼ばれる心理学で実証された方法を紹介します。ダイエットから交渉術まで、いろいろな分野で活用されているのでご存じかもしれません。これは、事前に「もし、~なりそうになったら、このように行動する」と、はっきりと具体的に行動を決めておくというものです。
例えば、if-もし「やるべきことが多すぎてパニックになってしまいそうになったら(若かりし頃、こんな自分がいましたね)」、then―心の中で「大丈夫!誰が何と言おうと、わたしは私。一つひとつ片付ければ必ず終わる」とつぶやくと決めておきます(この方法は、私が実証済みです)。自分がこころの中でしっかりとつぶやくことで、いつもの行動(自動思考:いつもやってしまう自分の行動)を止めて、冷静に最後まであきらめずに自分で行動できるようにする(レジリエンスが鍛えられます)というものです。過去の経験を客観視することで、同じことが起こったときに、その時どう行動するか具体的に決めておくことがとても大事なのです。
または、約束が守れないで罪悪感を持ってしまう癖があるなら、if-もし「安請け合いしそうになったら」、then―心の中で「自分のスケジュール帳を確認してから答える」とつぶやくと決めておきます。いつもの行動(自動思考:確認せずにできると言って、結局できずにいる自分)を止めて、冷静にいつまでに実行するか具体的に行動するというものです。悪い癖を自分でコントロールできるようになっていきます。
私たちは、誰もが完全ではなく、不完全な生き物だと受け入れておきましょう。そのように考えると、誰もが、できることもできないこともあると理解できます。お互いの良いところを見ていくことができますし、相手を尊重できるようにもなります。
私たちは、経験を通して成長していく生き物でもあります。過去を振り返ることで、自分はどんな行動をしたかったのかを理解できるようになります。あなたらしさがそこに表現されていきます。日々新たな経験をしている私たちですが、どう日々を克服して成長するか。どんな創意工夫で乗り切っていくか。未来にいる「ありたい自分」と出会うのが楽しみになりますね。
明日に向かって何もしないなんて、オレには耐えられない。
マイルス・デイヴィス (米国のジャズトランペット奏者 / 1926~1991)