自分の感情が分からない。「Web検索」で自分の感情を確認する若者たち。

SNSで、ある記事を読んでいた時だったか、なぜかその言葉に私の目が止まったのです。それは「甘える」という言葉だった。

甘えると聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? 小さな子供が親に甘えることと思うかもしれません。または、男女の上手な甘え方など、よく記事で目にしているかもしれません。

でも私は、「甘える」という言葉を見て、「そういえば昔に比べて、“甘えている子供が少なくなっているのでは”」ということに、気づいてしまったのです。

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

そんな思いから、「甘え」について考えてみようと思います。

母親と乳児との関係などは、「甘え」無くして語れませんが、ある大学の先生が、「人間に限らず、子犬だって甘えるじゃないか」と話されたとか。たしかにSNSを見れば動物の親子に限らず、動物と人が互いに慈しんでいる写真や動画が多くアップされています。数多くの甘える写真は人を和ませますね。そして、相手を疑わず、安心している様子がそこにあります。

甘え」は、乳幼児期に親や保育する人から受け取る「愛情ある体験(「アタッチメント/愛着」という情緒的な結びつき)」が、成長の基盤となるため、人間にとって重要なもの。しかし、甘えや依存を体験していないと、他人を信頼したり期待に応えてくれると信じて行動したりすることが、難しくなると言われています。

アタッチメント/愛情ある体験」によって、自分を守ってくれる人がいる、何でも話せる人がいる、自分の居場所がある、などを学んでいきます。つまり、心身の自立に「甘え」が大事だという訳です。

甘えられない子供たち?!

最近よく見かけるのが、電車の中でも、ファミレスでも、親がスマホに集中している姿です。子供が話しかけてもスマホから目を離すことなく、生返事する親のそばで、子供がボーっとしています。親が子供にスマホを与えて勝手に遊ばせている様子も多く見かけてきました。これでは、親子の関係性が希薄になってしまいます。

子供は、お腹がすいたり、見知らぬ人に出遭ったり、初めての経験をしたときは、自分よりも強くて大きな親に守り慰めてもらい、安心安全を得ようとします。これをアタッチメント欲求といいます。この欲求は「甘え」によって、親と子の愛情ある対話や体験の中で満たされます。それを通して、信頼や安心を子供は理解してゆくものですが、対話がないままでは人間としての信頼や安心は生まれません。親/保育者は、その重要な役割を担っていることを認識する必要があります。

安定したアタッチメントを育むには、親/保育者が子供に敏感に応答できることが必要と言うことが、ジョン・ボウルビィのアタッチメント理論で提唱され、多くの実証研究で裏づけられ発展してきました。アタッチメント欲求がしっかりと満たされることが自律を育むと言えるのです。

アタッチメント欲求(甘える経験)が不足した状態で育ったら

もしも、幼少期に親や保育者からの愛情が不足して育った場合、ヒトとの関係性の中で、いろいろな出来事を経験し、いろいろな感情を体験する機会が不足すると考えられます。

一つは、コミュニケーションです。うれしいこと、悔しいこと、悲しいことなどの喜怒哀楽、つまり感情について学ぶ経験が不足しますそのため、出来事に対して悲しみや怒りの感情を、自分がどう感じたか、どう受け止めたらいいのか、人との適切な距離をどうとったらよいかをコントロールできない可能性があります。ヒトとの距離が近づきすぎる、あるいは、ヒトと関わろうとしないなど、信頼関係が構築できないという課題が考えられます。

二つ目は、行動です。 自分の感情が分からないため、人や物に依存しやすく、ストレスを感じるのですが、適切な発散の仕方がわからないということに陥りやすくなるでしょう。感情コントロールが苦手ですから、 過度に傷つきやすかったり、落ち込みやすかったりします。人との適切な距離感を保てないことから、新しい環境への適応が難しく、職が安定しにくく、恋愛関係を保つことも難しいという課題を抱える可能性があります。

アタッチメント欲求は、子供だけの話ではありません。大人であっても病気になったり、不安を抱えたりするとアタッチメント欲求が高まり、信頼できる人を頼りたくなるのです。

 “自分の感情が分からない”という課題を いまの若者たちも抱えています。

ネットで自分の感情を検索するZ世代

【「感情検索」から見えてくるZ世代のリアルーー自分、他人、社会との関係性】 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポート・前編で、Z世代の検索行動を調査する中で、自分の内心で漠然と感じている“感情を検索する”という興味深い行動を調査したレポートがありました。

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「サッカーを見ていてすごいプレーだと思った時、他の人もすごいと言っているか、Xで確認する。」?!

「ニュースを見てムカついたとき、他の人も怒っているかを X(Twitter)で検索する。むしろ擁護している人が多かったりすると自分の感情を調整する。」、「サッカーを見ていてすごいプレーだと思った時、他の人もすごいと言っているか、Xで確認する。」、「自分がどうしたいか分からない時、検索する」など、自分の中にぼんやりあるけれど、しっかり理解出来ているものではなく、「この気持ちは何なのだろう?」とモヤモヤしていることをそのまま検索窓に打ち込んでいるという様子が見えてきました。

彼ら彼女らの生活やコミュニケーション中に感情検索は浸透しているようだ。こうした知識やツールがオープンになることで、感情というものが、ただ感じるものではなく、分析して理解するものになっているのかもしれないと書かれていた。

感情検索する若者の意識

若者たちの間には“自分の感情を検索する”という行動=“感情検索”が根付いているのではないかということが述べられています。

彼らは、“自分らしさを大事にしたい”と“間違いたくない”という2つの意識があるその中に、自分を知りたい、他人を知りたい、ギャップを知りたいという3つのキーワードがあるようだ。

  • 自分を知りたい:検索をすることで、自分以外にも同じようなことを考えている人が見つかるかもしれない。そのような行動を通して、解像度を高めながら、自分の中にある気持ちを探っていきたいと考えている。
  • 他人を知りたい:お互いに無関心で壁をつくっているのではなく、冷静になって価値観の異なる他人の考えや行動の背景を探ろうとする様子が見えてきた。
  • ギャップを知りたい:若者たちは、家族や友人に相談することが出来ないというわけではなく、相談する前に他人に話していいことなのか確かめたいという気持ちがある。

感情を検索する意味

Z世代の彼らは、“間違いたくないという意識が強い”とありました。もしかすると人に訊くことを恐れているのかもしれません。自分に自信がもてないからだと思います。また、自分がどうしたいか分からない時、ネットで検索するということは、ネットに依存しているといえます。

自分の感情が分からないということは、自分のアイデンティティが分からないということです。

Z世代が突然「自分の感情が分からない」ということを言い出したわけではないと思います。インターネット時代の前から、徐々に甘える(愛情)経験が不足していったのだろうと思います。

この変化が良いとか悪いとか言いたいのではありません。社会は、環境によって形や考え方を変化させ変容していくものです。近い未来には、感情のWeb検索も普通のことになるかもしれませんし、生成AIによるカウンセリングという時代も来る可能性は高いでしょう。これからも、変化していくはずです。

ただし、自分の中にある感情を知るのは、検索して答えを求めるだけではなく、自分の内側にも答えがあるのです。あなたの感情がワクワクしていたなら、そこには理由があるわけです。あなたが怒りを感じたなら、何が怒りの元なのかを探ることで、自分の思考が分かります。そうしたプロセスを丁寧に理解していくことで、自分自身を理解していきます。自分はどんな人間なのかが分かり、自分に自信が持てるようになります。

「自分の感情」を理解し表現できる人とは

自分の感情を理解し表現できる人とは、自分自身のことが分かっている人でしょうし、自分も他人も尊重している人だと言えます。つまり、セルフエスティームが高い人だといえます。しかし、自分はどの程度それができているのかというと、自分で気づくことは簡単ではなさそうです。じつは、アタッチメントパターンの違いから、そのヒントが得られるようなので、ちょっと取り組んでみましょう。

それは、アタッチメント欲求(甘える経験)の違いによって、ひとり一人が、小さい時に育んできた自分のアタッチメントのパターンを持っているそうなのです。下記を参考に、あなたのアタッチメントパターンをチェックしてみてください。

1)困ったときは人に頼りながら自分でもしっかりと頑張る人

2)どちらかと言えば人に頼らず自分で抱え込みがちな人

3)人に頼りがちで自分で挑戦することへの自信を持ちにくい人

3つの中で、あなたらしいと感じるのは、どれでしょう。それによって、自分のパターンが分かるように思います。

ちなみにアタッチメントが安定している人(1)ほど、「自分で頑張ること」と「人に頼ること」のバランスをうまく取れるそうです。もしも、あなたがどちらかに偏っていると気づいたら、そのバランスを整えるように行動していくと良いかもしれません。

あなたの感情は、あなたの思考(ものの捉え方)を教えてくれます。それによって、あなたは自分を知ることになります。

「自分で頑張ること」と「人に頼ること」のバランスをうまく取れるようになるために、人とのコミュニケーションと行動を大事にしていきましょう。

ヒトと違っているのは当たり前のこと。その違いを互いに語り合う中で、感情が豊かに育ち、共感が生まれます。互いにありのままに語れるときに、新しい気づきが生まれ、信頼と安心が育っていきます。

あなたは、相手の表情、相手の声、相手の言葉、相手の態度から、相手の感情が理解できます。そして、あなたも表情、声、態度であなたの感情を表現できます。

そして、私たち人間には、「言葉」があります。

”友達3人と田舎道を歩いていた。ちょうど日が暮れるころだった。1人目が「きれいな夕日だね」、2人目が「アッ、宵の明星が見えたよ」、3人目が「今日も楽しかったね」と言った”。それぞれがバラバラな視点を持っている。でも、3人が言葉を交わすことで、その夕日の世界で共感や気づきが生まれますね。

想いを語ることは大切です。他人がどう思っているかだけを考えるのでなく、自分の考えも大切にしていきましょう。語ることで、自分を知ることができるのですから。自分の感情がワクワクした時のエピソードを具体的に語ってみると良いですね。お散歩して、こころに止まった風景を言葉に表すことも良いですね。季節の変化に気づいたことを、SNSに掲載するのも良いですね。そして、誰かに話してみるとワクワクの世界が広がります。

あなたの感情表現を豊かにして、人とのコミュニケーションを広げていきましょう。信頼と安心が育まれていきます。

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参考文献<『「甘え」の構造』 土居健郎 弘文堂>、引用文献<「感情検索」から見えてくるZ世代のリアル 自分、他人、社会との関係性 前編」 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポートhttps://www.hakuhodody-holdings.co.jp/topics/2024/02/4684.html><『心理学ワールド107』42p-43p 親子関係の心理学 北川恵 Oct.2024 日本心理学会>

https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/topics/2024/02/4684.html>