上着を着替えるように、外見があなたの心のリミッターを外す。
外見は、自分が思っている以上に、人に対して、第一印象、他者からの評価、コミュニケーション、など多岐にわたって影響を与えることはご存じだと思います。人の本質は外見だけでは測れませんが、社会生活を送る上で、外見がもたらす影響を理解しておくことは重要だと言えるでしょう。
私たちの外見は、単なる外面ではなく、自己認識、自信、そして潜在能力の発揮に深く関わる心理的なツールであるということも知られています。
今回の「外見が心のリミッターを外す」という表現は、まさに外見が、個人の心理状態や能力発揮に影響を与える現象を指すのです。特に、あなたの認識や行動に心理的な制限をかけている「リミッター」を、外見の力によって解除するということです。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
「外見が心のリミッターを外す」という概念を裏付ける研究はいくつかありますが、まず「着衣認知理論(Enclothed Cognition(衣服に覆われた認知))」が最も直接的に関連します。
●アダムとガリンスキーの研究(2012年):アダム(Hajo Adam)とガリンスキー(Adam D. Galinsky)は、この「着衣認知」について複数の実験を行いました。 エンクロウテッド・コグニションの影響は2つの条件、すなわち「衣服(外見)の象徴的な意味」と、「実際に衣服を着用することに依存する」と考えています。

- 実験内容: 被験者を3つのグループに分けました。
- 医者の白衣を着るグループ: これから医者の白衣を着て問題を解くと言われたグループ。
- 芸術家の白衣を着るグループ: これから芸術家の白衣を着て問題を解くと言われたグループ。
- 普段着のグループ: 普段着のまま問題を解くグループ。
- 結果: 医者の白衣を着たグループは、他のグループよりも注意力や集中力を要する課題において高いパフォーマンスを示しました。これは、「医者 (という象徴的な意味)」の白衣が「注意力」や「慎重さ」といった特性と結びついているため、それに依存した行動からの結果と解釈されました。一方で、同じ白衣でも「芸術家」の白衣と説明されたグループには、そのような効果は見られませんでした。
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この結果から、着衣認知は、衣服が思考に同様の影響を与える可能性があると提唱しています。特定の服装を身につけることが、その服が持つ意味や象徴性を通じて、着る人の心理状態、認知能力、そして行動に影響を与えるというものです。この「影響」が、まさに「心のリミッターを外す」という現象と結びつきます。
そして最近では、VRアバターと「リミッターを外す」研究があります。
●東京大学の鳴海拓志先生らが研究されている「ゴーストエンジニアリング*」は、まさにこの「外見が心のリミッターを外す」という現象の、現代的な実証例として非常に興味深いです。
- 研究内容: VR空間で、現実の自分とは異なる外見のアバターを着用することで、そのアバターが持つ特徴(例:身長、力強さ、異なる性別など)が、現実世界でのその人の認知や行動に影響を与えるという研究です。
- 「ドラゴンのアバターで空を飛ぶ」実験: ドラゴンなどの空想上の存在のアバターを着用し、VR空間で空を飛ぶ体験をすることで、現実世界での被験者の創造性や問題解決能力に良い影響が出たという報告があります。これは、ドラゴンのアバターという「非現実的で強力な外見」が、被験者の心の中にあった「常識」や「限界」といったリミッターを一時的に解除し、より自由な思考や行動を促したと解釈できます。
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外見が単なる視覚的な情報に留まらず、それが持つ象徴的な意味が、着る人の自己認識や期待、そして具体的な行動に深く影響を与え、結果として潜在的な能力を引き出す(リミッターを外す)可能性を示唆しています。
自分の心のリミッターを外すとは、どういうことでしょうか。たとえば、トップセールスマンは、「新たな顧客をうまく獲得できるスーツ」を持っているというのを聴いたことがあります。ジンクスや自己暗示かもしれませんが、これも心のリミッターを外すきっかけになっています。過去にこのスーツを着てうまく契約が取れたという経験が「このスーツを着ると自信と勇気が湧いてくる」からなのでしょう。
つまり、自分の枠を広げて、新たな自分を創生していくことを意味しています。
「心のリミッターを外す」についての身近なところでは、自分のお気に入りの服を着たり、身だしなみを整えたりすることで自信が持てるようになるという経験は多くの人が持っているでしょう。それは自分の外見が肯定的に評価されることで、自己肯定感が増すことにつながるからです。スーツをビジネスシーンで着ることもプロフェッショナルな役割であったり、アスリートがユニフォームを着ることは、チーム力と言う意識を強め、それが行動に影響を与えるためと考えられます。

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わたしの<心のリミッターを外す>経験
● 左中指と右薬指に指輪をすると、プライベートから、仕事モードに。これは、今でもずっと続けていることです。指輪をすると、心のリミッターを切り替えるスイッチになって、集中力、より積極的に行動する、ポジティブな思考をもつなど、仕事をやり抜くという自己意識が高まります。逆に、指輪を外した時は解放された自由な気持ちになります。
●今の時代では考えられないと思いますが、”昔は20歳前後で結婚するもの、子供を生んで育てることに専念する、夫をサポートするもの”などが社会通念でした。私は「女性はこうあらねばならない」という古い上着を脱ぎ棄てました。「そうした枠に合わせなければならない」という重いリミッターを外すために、”困難にぶち当たっても逃げないでいこう”と決めて、自律的に人生を生きようと考え行動し続けて、今に至ってます。
外見だけでなく、身体の姿勢も内面に影響を与えることが知られています。自信に満ちた姿勢をとることで、テストステロン(自信と関連するホルモン)が増加し、コルチゾール(ストレスホルモン)が減少するという研究もあります。これは外見が内面に影響を与える例として共通する側面を持っています。行動を変えることで意識が変わるということですね。
自分の心のリミッターを外すとは、あなたがいつも着ている上着を脱いでみるということです。
あなたは生きている間に、「何事も完璧でなければだめだ。人前でうまく話すのが苦手だ。運動するのは私には無理。私は人に好かれない。私は外見が悪い。」などといった、あなた自身の内面に設定した「上着」を着ているかもしれません。
心のリミッターを外すことは、あなた自身が設定した「上着」を脱ぐことです。つまりあなたの思い込みを打破することでもあります。
自分の心のリミッターを外すことで良い結果が得られた実例は、個人の経験談として非常に多く存在します。具体的な研究事例として厳密に「リミッターが外れた」と証明されたものを見つけるのは難しいですが、多くの人が自己成長や成功体験として語る中で、明らかに心理的なリミッターが外れたことによる効果と解釈できるものはたくさんあります。
それによって、自分の枠を広げて、新たな自分を創生していくことを意味しています。
自分の心理的なリミッターが外れたことで、人生が変わった例をあげてみましょう。
1.人間関係を改善し、より豊かな交流を実現した例
- Aさん(20代男性)は、昔から人見知りで、初対面の人との会話が非常に苦手でした。「何を話したら良いか分からない」「変なことを言って嫌われたらどうしよう」というリミッターがあり、友人の輪が広がらず、孤独を感じていました。
- リミッターが外れたきっかけ: あるイベントで、参加者全員が自己紹介をする機会がありました。Aさんは「今回は、素直に自分の趣味を話してみよう」と、心の中で決断しました。そのきっかけとして、趣味にかかわるバッジをジャケットにつけていきました。すると、意外にも同じ趣味を持つ人が見つかり、そこから自然な会話が始まりました。この経験を通じて「変なことを言って嫌われたらどうしよう」というリミッターが外れ、「自分を飾らずに話して大丈夫だ」と言う考えになった。
- 結果: 以前よりも積極的に交流の場に参加するようになり、共通の趣味を持つ友人が増えました。今では、人とのコミュニケーションを楽しむことができるようになり、人間関係が大きく豊かになりました。
2.身体的な挑戦を乗り越え、自己効力感を高めた例
- Bさん(40代男性)は、運動が苦手で、学生時代から体育の授業を避けてきました。「自分は運動神経がない」「体力がないから無理」というリミッターが強く、ランニングや筋トレなど、本格的な運動には全く手を出していませんでした。健康診断で生活習慣病のリスクを指摘され、ついにジョギングを始める決意をしました。
- リミッターが外れたきっかけ: 最初は5分走るのも辛かったのですが、毎日少しずつ距離を伸ばし、目標を細かく設定しました。そんな時に、専用のランニングウェアを着て走ることにしました。それからは、今まで最長だと思っていた距離を、何の苦もなく走り切れるようになって、「自分はもっとできるんだ」という強い感覚を得ることができた。この瞬間、「自分はできない」という長年のリミッターが外れたと語っています。
- 結果: 今ではフルマラソンを完走するまでになり、体力だけでなく、仕事でも、困難な課題に直面した際に「あのジョギングを乗り越えられたのだから、これもきっとできる」と前向きに取り組めるようになったそうです。
3.完璧主義を手放し、生産性を向上させた例
- Cさん(30代女性)は、仕事において完璧主義で、小さなミスも許せず、一つ一つのタスクに膨大な時間をかけていました。結果として、常に時間に追われ、ストレスがたまる日々。「完璧でなければならない」「人からの評価を気にしすぎる」というリミッターがありました。
- リミッターが外れたきっかけ: 上司から「80点で良いから、とにかく早くアウトプットしてフィードバックをもらう方が、結果的に良いものになる」とアドバイスを受けました。最初は抵抗がありましたが、意識的に「これくらいで良いか」と割り切って提出してみたところ、意外にも良い評価を得られました。上司からのアドバイスによって、仕事のやり方を見直すことでき自信につながったのです。
- 結果:80%という目安ができたことで、 完璧主義のリミッターが外れて、タスクを効率的にこなせるようになり残業が減少。精神的な余裕も生まれ、仕事の質も向上しました。
これらの実例は、わたしたちが自分自身の内面に設定していた「〜は無理だ」「〜すべきだ」といった思い込みや制約を乗り越えることで、より充実した人生を送れるようになることを示しています。外見の影響だけでなく、自己認識の変革、目標設定、そして、小さな成功体験の積み重ねなどが、これらの「心のリミッターを外す」ことに貢献していることが多いです。
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あなたは、どんなリミッターを持っていましたか? それはどうやって外しましたか? きっかけをどう作りましたか?
そして、今あるリミッターは何でしょうか? それはどうやって外しますか?
自分の心のリミッターをコントロールできるのは、あなた自身です。人生を豊かにするためにも上着を着替えてみませんか。
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<「衣服による認知のご紹介―着るものが施行にどう影響するかBPS」https://www.bps.org.uk/research-digest/introducing-enclothed-cognition-how-what-we-wear-affects-how-we-think><*ゴーストエンジニアリング:鳴海拓志氏 『身体変容による認知拡張の活用に向けて』 学術雑誌**「認知科学」の26巻1号 (2019年) に掲載**>