好意と敵意の狭間に何があるのか。あなたが好意や敵意を持つ理由

私たちは、初めて会って、まだ人柄も分からない段階で、「いい人だなあ」と思えることがある一方で、何故か好きになれないと思う時もありますね。このように私たちは、好き・嫌いと相対した感情が湧くことがあります。なんだか不思議ですよね。今回は、好意と敵意について話します。

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

好意とは、「いい人だなあと思う気持ち」「親切な気持ち」。敵意とは、「敵対しようとする心。」「相手を敵として憎む気持ち。」だそうです。

まずは、好意とは

人は、自分に好意を感じている知人に対してYesを言う傾向があります。私たちが最も頼みごとを聞いてあげたいと思うのは、相手をよく知っていて、しかもその人に好意を持っている場合です。

自分が相手に対して、好意を感じることもあれば、相手が好意的に自分に対してかかわることもあります。

ヒトが好意を感じるというのは、5つの要因から生まれる

1.外見の魅力:身体的な美しさが有利に働くことは、以前から知られていますが、ハロー効果を生じさせ、親切、知性など他の特性に対しても評価を高めているようです。推しのタレントが、CMで「これ良いよ」と宣伝すると購買に繋がるという影響力は大きいのです。

2.類似性:自分と似た人に好意を感じ、そう言った人からの要求に、あまり考えずにyesという傾向が強いと言われています。

3.お世辞:あなたを褒める、称賛することです。あまりに露骨だと反感を感じますが、承諾を引き出しやすいので、ビジネスの世界では、よく見かけます。

4.接触:人やモノと接触を繰り返し、馴染みをもつことも、好意を促進する要素の一つと言えます。もちろん、快適な環境の中で接触が起こる場合です。あるインターネット広告の研究で、それを裏付ける結果が出ています。参加者が読む記事の上部にカメラのバナー広告を表示させた実験を行いました。5回表示させた場合、20回表示させた場合、まったく表示させなかった場合で、どんな違いがみられるかという調査でした。表示時間は極めて短い間だったので、参加者はバナー広告が出ていたことに気づいていませんでしたが、それでも表示回数が多いほど、そのカメラに対して好印象を持っていたというものです。

5.連合:広告制作や、政治家、商売人は、自分自身や自分の扱う製品と望ましいものを結び付け、その望ましさを分かち合おうとすることです。たとえば、好きなタレントやスポーツ選手が商品を持ってにっこりしているCM広告を見て、その商品またはタレントに好意を感じる。モーターショウで新車の横にかっこよい女性モデルが立っていますが、これも互いのカッコよさや美しさを分ちあう連合を用い、好意を高めていると言えます。

私たちは、好意的にかかわる人たちに、好意を感じてしまう。

例えば車や家を買うなど高額なものを購入しようとするとき、好感の持てない人から買う気にはなりません。“好感の持てる人から買いたい”と思います。信頼できそうとか、誠実に対応してくれそうなど、感じ取っているわけです。

好意は、関係構築には大事なことですが、承諾を引き出そうと悪用する人もいます。ですから、相手からの好意に、もし違和感を持ったら、あなたの好意的感情を切り離して、相手の申し出内容を冷静に考えて、承諾するかどうかの決定を下すことが重要です。

とは言え、人に好意を持つことのできるあなたは、きっとみんなからも好意を持たれると思います。好意は、人とのつながりを広げていくために大事なものと言えるようです。

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敵意を生みだすものとは

他者の言動や行動から“悪意がある”と感じてしまう心理の傾向を「敵意帰属バイアス」と言います。

例えば、人混みの中などで、他者と肩がぶつかった時、敵意帰属バイアスに陥っていない人は、「すみません」と言ってそのまま立ち去りますが、敵意帰属バイアスに陥っている人は、「ふざけんな!」と怒鳴ったり、舌打ちをしたりします。それは“肩をぶつける”という行動に“悪意がある”と感じるからです。

人間は、そもそも自己防衛することで生き延びてきました。大昔はたしかに、敵を意識できた方が生存確率を高めることができましたから。でも、現代社会においては、不適応な行動となり、あまり良くないものと理解されています。

敵意帰属バイアスを持ってしまう原因

Dodgeらに代表される社会的情報処理モデルの研究があります(Crick&Dodge,1994)。このモデルによると、人は社会的な情報を①手がかりの符号化、②手がかりの解釈、③目標の明確化、④反応の検索、⑤反応決定、⑥実行という6つの段階を通して処理するとされています。このうち一つ以上の段階でバイアスやエラーがあると、攻撃をはじめとする不適応行動が生じやすくなるのです。

社会的情報処理と攻撃行動の研究の中で、②“手がかりの解釈“における敵意帰属バイアスが多くの研究者の関心を集めてきました。敵意帰属バイアスとは、自分が何らかの被害を受けた時に、加害者の意図を悪意に解釈する傾向を指します。このバイアスが高いものほど他者に対して(報復的な) 攻撃行動を示しやすいことが明らかにされています(Dodge,1986;Dodge&Coie,1987)。

この現象は、男女を問わず幼児から青年までの広い年齢層で確認されています。最近では仲間外れ、無視と言った関係性攻撃(仲間関係を操作することで相手を傷つける攻撃)や、自分が関係性攻撃の被害を受けているという架空場面に限って敵意帰属バイアスを示すなど広がりを見せています。相手の性格や態度が気に入らなかったなど、相手の印象においても攻撃を仕掛ける場合もあるのです。

敵意帰属バイアスにとらわれる時とは

上記で述べたように、社会的情報処理では、“手がかりの解釈”は、エラーとつながりやすいと考えられています。つまり、相手の言葉を自分がどのように解釈したかで、エラーになる可能性が高いと述べているのです。

社会的情報処理、平たく言ってしまうとコミュニケーションは、発信者が伝えたことを 受信者は解釈・反応して発信者に伝え返す。つまりコミュニケーションは受信者の解釈次第なのです。ですから、多かれ少なかれコミュニケーションでは、情報のズレや漏れが生じます。時として他者とのコミュニケーションで、自分の心の中に「モヤモヤっとした敵意」を感じたことは、だれでもあるのではないでしょうか。

私自身も、このようなモヤモヤを経験したことがあります。

行動におこす、起こさない。どっちを選択したらよいか。

行動に起こす、起こさない。そこには、どのような違いがあるでしょう。

ヒトが相手から感じ取ったことが、なぜ社会ではエラーになってしまうのか。それは、ヒトが経験の中で培ってきた認知が、他の多くの人の認識と違っているから。

ヒトは他者から自分自身を守るために自己防衛をします。つまり、防衛しなければ自分自身が傷ついてしまうと感じるからです。それは自己肯定感の不安定さや自分を認めることができない劣等感など、それに伴う認知の歪みから生まれます。つまり正しく自分を認識していない、セルフエスティームに原因があるといえます。

敵意帰属バイアスは、言い換えるならば”実際にはない敵意”を自分の中で感じ取っているといえます。 

敵意帰属バイアスにとらわれやすい人の思考<例>

・相手の発言にイラっと感じて怒りをぶちまけてしまう。

・いじめられた経験から、自己防衛しないとまた狙われてしまうと感じる。

・知り合いに相談をしたとき、「私だったらこうするかな?」と言われ、私を見下していると怒ってしまう。

・相手の態度が気に入らず仲間にいれない、または無視する。

・勝手に敵対心を向けられ、仲間外れにされてしまう。

・なぜか無視される。

自分の敵意帰属バイアス(認知の歪み)から自由になる方法

私たちは、出来事を直感的に感情で受け止めます。それは、今までの経験から学んできた自動思考がそうさせるのです。でも、この繰り返しは同じことをただ繰り返してしまうだけです。認知の歪みから抜け出すには、その感情を出来事から切り離す努力から始まります。

① 出来事と自分の感情を切り離す癖をつける

たとえば、今あなたが経験した出来事を冷静に事実だけを客観視する。怒りは、あなたのものの捉え方が、出来事を解釈したことで生まれます。自分の感情を切り離して、出来事(事実)だけを俯瞰してみると全く別の視点が見えてきます。

② 「自分の捉え方はすべて間違っている」という大前提で接してみる。

あなたが今までの経験から培ってきた自分の認知の歪みを捉え直すために、ネガティブな受け止め方を否定し、ポジティブな捉え方に言い換えるようにリフレーミングします。

たとえば、あなたが「職場の仲間から、なぜか敵対心を向けられ、仲間外れにされた」と解釈した時、リフレーミングして「仲間外れは気分が良くないけれど、むしろその人たちを気にしないで距離を置いたほうが気楽で良いわ。仕事に集中できるし、会社を離れれば関係ない。」と、言い換えてみる。

または、別の友人に「もし、〇〇さんが、職場で仲間外れにされたら、あなたならどう行動するかを教えてほしい」と、アドバイスを他者に求めることもできると思います。そうすることで別の視点が学べるでしょう。

他者からの敵意帰属バイアスに対処する方法

初めて会って挨拶しただけなのに、何故だか相手から嫌味を言われてしまった、勝手に敵対心を向けられた。一緒に話をしていたら、私の発言に傷ついたと言われ突然怒ってしまったなど、そんな経験をしたことはありませんか?

敵意帰属バイアスは思い込みや妄想です。この人はいま敵意帰属バイアスにとらわれていそうだ」と思った時点で、弁明や説得はやめましょう。 他者からの説得や弁明では、解決できないのです。本人が、社会との関係性のなかで、自分の認知の歪みから解放されたいと思わなければできないことなのです。

社会の中では、好意と敵意のバランスが鍵

他者との良好な関係維持は、社会に生きる私たちには重要です。そのために、社会において自己を制御することを社会的自己制御と言います。

社会的自己制御の力

ある研究で、社会的自己制御は、迷惑行為(ごみのポイ捨て)や非行など社会的場面での問題行動の予測率が高いことが確認されました。また、メンバーの社会的自己制御が集団の意思決定やパフォーマンスにどういう影響を及ぼすかが検討され、社会的自己制御や他者感情を読み取る能力の集団平均値が高い集団の方が、集団パフォーマンスが優れていることが報告されています。

他者の表情から感情を正しく読み取ったうえで、自分の考えを主張する自己主張能力や、自分勝手な発言や行動を制御し、他者の意見や行動を尊重するといった自己制御能力が、集団内の円滑なコミュニケーションの生成につながり、結果として優れた集団パフォーマンスに結びつくようです。

今回は、好意と敵意についてお伝えしました。

あなたの中の好意と敵意のバランスはいかがだったでしょうか。うまくバランスをとることは、そう簡単なことではありませんね。自己主張力や自己制御力という力を鍛えることで、相手に対する好意や敵意のバランスが保たれるように思います。

自分のものの捉え方の偏りやこだわりが、相手に対して敵意をもってしまうこともあります。バランスを崩せば攻撃的な行動・言動になります。しかし、自分だけが発言を我慢すればよいというのでもないでしょう。

ここで大事なことは、互いに尊重しあえる関係性の構築になります。

事実に基づいたアサーティブな発言が、尊重する関係性を生みだします。それによって、相手と信頼しあい、違いを認め合えるように、対話が始まります。

引用文献:<ロバート・B・チャルディーニ 『影響力の武器(第3版)――なぜ人は動かされるのか』 株式会社 誠信書房、2020年><編者 小塩真司 『非認知能力 概念・測定と教育の可能性』 ㈱北大路書房、2021年><磯部美良・菱沼悠紀 「大学生における攻撃性と対人情報処理の関連1)2)-印象形成の観点から パーソナリティ研究2007第15巻第3号 290-300>