アイデアを出しても、うまくいかない本当の理由
最近、ビジネス系のニュースやSNSなどで、下記のような記事を目にする機会が多くなっています。
「わが国経済がかつてのような成長を目指すためには、企業が新しいモノを生み出すビジネスモデルの創出に向けて自己変革に取り組む必要がある。~~」と・・・。
創造性を発揮して今までにないものを作らなければ・・・。新しい何かを生みださないと会社が生き残れない・・・。世の中の変化についていくために、何か変えなければ・・・。
そのような環境の中、多岐にわたるアイデアが、日々生みだされているわけです。その裏で、さらに多くのアイデアが、ボツになっていることが多いのも事実でしょう。でも、ちょっと待ってください! もしかすると組織の「思い込み」で優れたアイデアの卵をつぶしているかもしれません。
今回は、組織の「思い込み」とは。そして、それを打破するためのリーダーの心得にフォーカスします。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
「そんなアイデアは、とっくの昔に出したよ!」って、いつのこと?
あなたが考えた企画案を頭ごなしに「そんなアイデアはとっくの昔に出しているよ!」と、先輩社員や上司に言われた経験、ありませんか。勇気をもって発言したのに、そんな言われ方をされては、もう自分の意見が言えない、気持ちが委縮してしまう、あるいは、けっきょく何を言っても駄目なら、もうどうでもいいやと投げやりになった経験もあるはずです。
しかし、「そんなアイデアはとっくの昔に出しているよ!」と言った彼らは、そのアイデアを何年前に出したのでしょうか。時代が移り変われば、同じアイデアでも新鮮なアイデアに生まれ変わる可能性もあることを忘れないでほしいのです。一度ダメなら二度目はないという思い込みが、組織をダメにしているかもしれません。
アイデアを揉むには「批判しあう」のがベストって?! それも思い込みです。
企画会議で、互いのアイデアを早い段階で批判しあうのは、まったく悪いわけではではありませんが、そこで出される反対意見やそれに対する反論を互いに言っているだけでは、思考が止まっている、無駄な時間といえます。
たしかに、批判しあうことの意味は、「本当にこれで正しいのか」という視点を持って物事を見ることで、より正しい論理につなげていく思考法のことです。ただし、アイデアを生みだす段階では、クリティカルに考えるのは早すぎる。
批判だけする人は、組織に不要!
新しいアイデアに対し「前例がない!」と頭ごなしに否定する人、代案も提示しないくせに、出されたアイデアの欠点ばかり見つけてはダメだしする人。このように新しいアイデアが表れるたびに抑え込むような流れになっていることが多いのではありませんか。批判しあうことで、アイデアをブラッシュアップすると思い込んでいるかもしれません。でもそれは違います。
今、世の中で問題なのは、批判的思考が増えていることです。テレビやSNSなどで政治の決断を批判する、他人のアイデアの欠点やアラをみつけて否定したり批判する人が目立ちます。またその人たちを称賛する風潮も世の中に増えてきたように思うのです。そのような世の中だからか、アイデアを考えだすよりも、「批判だけする」という楽な道を選ぶ人がなんと多いことか。批判する前に、「どのようにアイデアを生みだすか」と自ら行動を起こす人が必要です。
リーダーは、アイデアを育てるプロセスを生みだす人
企画会議の早い段階から、アイデアをチームで揉んで、他者からのフィードバックを前向きに捉えながらまとめていければ、最初の小さなアイデアが大きな実をつけていく可能性があります。そのためには、一人ひとりが勝手に自分の言いたいことを言うのではなく、チームで“アイデアを育てるプロセス”を育む姿勢が重要です。そしてチームをまとめる責任者である上司や、会議を主催するリーダーたちが、“アイデアを育てるプロセス”を生みだしていくのです。
小さな風が、みんなの英知(D&I)で嵐を起こす。
アイデアに対して深堀せず一人ひとりが自分の思いつくまま数多くアイデアを出すのが良いと思っている人もいます。しかし、薄っぺらな素案のままでは、嵐は起こせません。チームの多様性が、思考を広げ新たなものを生みだします。思考の違いを深めていく、その違いから新たな気づきがうまれ、その気づきから統合した未知のものが生まれる可能性に期待するわけです。
部下が安心して考えを言える環境(態度)があることが前提です。リーダーは、部下のアイデアを否定せずに引き出し、チームディスカッションの中でアイデアを大きく育てることに力を注ぎます。チームとして多様な選択肢が生まれてから、建設的な批判を始めていけばよいわけです。自分への反対意見を歓迎し、より強固なアイデアに成長させます。
よく聞く悪い例としては、仕事を早く進めるために、リーダーが自分のアイデアを先に言って、部下に同意を求めてしまうことも多いようです。これでは、せっかくの部下育成の機会を奪ってしまい、部下が存在する意味がありません。ましてやそのような環境では、部下が反対の意見を言えるわけもありません。
アイデアを育てるプロセスで、リーダーが知っておきたい3つのポイント
アイデアを生みだして行動を起こす部下を育てるために大事なこと。
1.新たな選択肢を生みだす環境をつくる:
ありえないとか、バカげているとか、実現できるか分からない、予算的に可能かどうかは考えなくても良いなど、自由に発言する場になるように、時として効果的に介入します。ここで出されたアイデアは、検証可能な仮設といえます。そうすることで、集められそうなデータや、現実にできそうな行動にはどういうものがあるか?と問いかけることで、次のアクションへつながります。
2.リーダーは、問いかけの達人になる
自由に相手が話せるように、イエス/ノーで答えられない質問づくりが最も重要です。「どんなことが出来そうかな?」「どんな風に考えたの?」など、”How”を意識して問いかけると、相手は全体像をしっかりと語れるようになります。また、とかくリーダーの方たちを見ていると、誘導的質問になってしまう場面と出会うのですが、自分の思った方向に引き寄せたいがための誘導的質問は絶対に避けましょう。
3.リーダーのかかわる態度でアイデアが育つ
リーダーの態度は、最も難しく、そして重要です。リーダーとしては、ソクラテスの「無知の知」という考え方を基本にします。それは「自分がいかにわかっていないかを自覚せよ」ということです。つまり、すべて答えを知っているフリをしない、テーマに対して詳しくないことを自覚してかかわる態度です。表に出すのは自信ではなく知的好奇心を全開にします。チームメンバーとともに、それぞれのアイデアを互いに深く理解できるように運営して、議論のまとめ役になります。
リーダーはヒトの心理を知っておきましょう。
ヒトはやり直しが大嫌い。サンクコストの罠
これぞ!という一つのアイデアを生みだすと、それに対するネガティブフィードバックが受け容れられず、今までのアイデアに固執してしまうってことありますね。私がアートディレクターだったころ、チームで新製品プロモーションの社内プレゼンで、ひとりのデザイナーが、自分が良いと思ったアイデアに執着して、ボツになったそのデザインを手直しして再提出していたことを思い出しました。労力を注ぎ込んできたからなおさら、別の選択肢に目を向けることができなくなってしまいます。
その心理としては、自分が育てたアイデアをダメだと言われると、自分の中での矛盾――自分は良いと思ったのに、みんなはダメだという。そんなことあるの?――を抱えてしまうため、それを挽回しようと手直しすることで、次回は認められるかもという期待から、自分のアイデアに執着してしまうようです。自分の出したアイデアをきっぱり捨てることは、中々できないものです。 この罠に、はまらないように最初から複数の選択肢を生みだす力を育てることが良いですね。
自分の失敗は、不可抗力と思ってしまう、思い込み。
やり直しを拒むものには、サンクコストの罠だけでなく、セルフサービングバイアスと呼ぶ現象があります。成功した時には自分の中にある能力や努力によるものと思い、失敗した時には運の悪さや物事の困難さなど自分ではどうにもできないことが原因なのだと思う傾向のことを言います。例えば、コロナのせいでリモートワークになり、今まで通りの仕事のやり方が出来なくなってしまったので失敗したと、環境変化のせいにして、自分の失敗を無視してしまうということです。このままでは、その課題をどう乗り越えるかという学習や自ら成長する機会を逃してしまうことになります。 こうなってしまう前に、この計画を成功するためには、何をする必要がある?と問いかけることから始めます。私たちが分かっている前提を書き出して本当にそれでよいか確かめていくプロセスを育みましょう。
批判的フィードバックを言うヤツは、「わたしを嫌いなんだ」という、思い込み。
批判的なフィードバックを受けると身構えて話を聴くのを止めてしまう、または聴きたくないあまり、心の耳を塞いでしまうことがあります。そんな時はなおさら、自分が信じることの裏付けになる情報は必死に探し出し、自分の見解と違うデータは無視し、さらに批判した人と距離を置くようにしてしまうこともあるようです。
これについて、ポール・グリーン、フランチェスカ・ジノ、ブラッド・スターツの3人の研究者の調査結果があります。4年間の調査で正社員300人以上の4年分のパフォーマンス・データを調べたのです。それで分かったことは、同僚から悪いところを指摘するフィードバックをもらった場合、その同僚を自分の交流関係から外し、自分を肯定する同僚の数を増やすという傾向が見受けられました。そのような行動をした社員は、パフォーマンスが著しく低下したという代償が伴ったというものでした。
<マイケル・A・ロベルト著 『Unlocking Creativity チームの創造力を解き放つ最強の戦略』 東洋経済新報社(2020.3)>
リーダーは、嫌いだから批判的フィードバックを言っているわけではないと相手が認識できるように丁寧に対話します。そんなことは分かっていると言うかもしれませんが、人間はそう簡単な動物でもありません。批判されるとネガティブ感情が動いてしまうのです。リーダー自身も批判的フィードバックをもらったなら、その相手を遠ざけるようではいけません。自分の見えないことを教えてくれた大切な意見として受け止めたいですね。
いかがでしたか。今回お伝えしたことを根気よく実践していただけたらうれしいです。きっとあなた自身も、そしてあなたのチームの自己効力感も、そしてレジリエンスも向上すると思います。
未来を生みだすプロセスは、苦しいですが、ワクワクたのしいものですね。アイデアを育てるプロセスは、幸せのプロセス。どんな未来が生みだせるのか、一歩踏み出しましょう。
参考文献:<マイケル・A・ロベルト著 『Unlocking Creativity チームの創造力を解き放つ最強の戦略』 東洋経済新報社(2020.3)><脇本竜太郎著 『なぜ人は困った考えや行動にとらわれるのか?』 ちとせプレス(2019.12)>