「親世代より不幸せだ」と思う若者たち。 幸せのカタチとは。

コロナ禍で大学の授業もオンラインとなり、友達を作ることもままならない中で、2年以上経ってしまいました。

コロナの影響か、キャッシュレス化が進み、「おつり」という言葉を知らない子供たちがいます。そして何でも「ピッという音で、買える」と思っている子供たちの時代が近づいています。その変化の速さに私自身、驚いているのです。

このような急激な変化によって、若者の「幸せの感じ方」も変化していると思える記事をみつけました。それは、日本経済新聞の読者アンケート調査で20代~40代に「自分の時代は親世代と比べて幸せだと思うか」という問いに対して、「親の世代より不幸せだ」と回答した者が「幸せだ」と回答した者よりも上回ったという実態が分かった。「自分たちは親世代より不幸せだ」と回答したのは、29歳以下の若者は約35%、30代は約30%、40代は35%だった。(対象者は、日経IDの所有者を対象にオンラインで実施し、14,000人にから回答を得た。) 

こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。 

昨今、幸福について注目されることが多くなった「幸せ」ですが、「幸せ」とは何だろうか? 何をもって幸せというのだろうか。「幸せ」の捉え方について概観しようと思います。

幸福について、近年日本では、様々な領域で研究されています。経済学では、大竹・佐野(2007)、大竹・白石(2010)、心理学では、大石(2009)、橋本・子安(2012)、伊藤・小玉(2005)、内田(2013)、そして工学の視点から前野(2013)など、あらゆる分野で研究、著作が公刊され、学問領域を超えて広く幸福を捉えようとしていることが特徴といえます。

幸福の起源は?

じつは幸福研究は、1917年ごろからヨーロッパで始まって、「幸福とは、異常な状態だ」という認識の上に成り立っていたといいます。幸福について最初の研究論文は、精神病医兼脳神経外科医のアブラハム・マイヤーソンによって書かれており、今からたった100年余り前のこと。そして1929年フロイトは人々が幸福になれないのは、この文明社会のせいだと『文化への不満』で述べているそうです。

よく取り沙汰される「労働生産性」と「幸福度(生活満足度)」

労働生産性と幸福度の関係についての研究によると、幸福度の高い従業員ほど生産性が高いことが見いだされている(Zelenski,Murphy,& Jenkins, 2008)。

Warr(1999)は文献をサーベイし、労働者にとって報われる仕事とは、給料や福利厚生が良いことのみならず、労働者が自ら仕事をコントロールできること、自らの技能を発揮できること、身体の安全管理がなされていること、管理職からのサポートが得られること、ステータスが高いこと、といった条件を満たす仕事であると指摘している(大竹, 2010)。

つまり自律的に仕事をこなし、自らの能力を発揮でき、心理的安全性があることで、仕事に対する満足度は高くなる。したがって生産性が高い従業員ほど幸福度が高いと考えられるということにもなるのでしょう。

2021幸福感が高い国

2021年度、国連のSustainable Development Solution Network(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)は、世界153ヶ国に住む人々の幸福感(Happiness & Well-being)を国別ランキングにまとめた「World Happiness Report 2021」を発表している (単なる主観的な幸福度の高さだけでなく、GDPなどの客観的な項目など8つの項目から選ばれている)。最も幸福感が高い国はフィンランドで、次にデンマーク、3位がスイス、4位アイスランド、5位オランダ、6位ノルウェー、7位スウェーデン、8位ルクセンブルグ、9位ニュージーランド、10位オーストリアだった。

アジアという括りでみると、最も高かったのは台湾24位、サウジアラビア26位、シンガポールが32位、タイが54位、日本は56位、フィリピン61位、韓国62位、香港77位、中国84位。日本は2020年度ランキングより6位前進した。

労働生産性の国際比較2021

さて、労働生産性の高い国と幸福感の高い国とは、正の相関があるといえます。実際に、2021年の1~10位の幸福感の高い国々の時間当たりの労働生産性を見ると、順位にばらつきはあるものの、ルクセンブルグ2位、ノルウェー3位、デンマーク4位、スイス6位、オーストリア8位、スウェーデン10位、オランダ11位、アイスランド13位、フィンランド14位、ニュージランド27位と、幸福感の高い国すべてが、労働生産性の上位に位置していました(労働生産性の国際比較2021)。ちなみに38か国中、日本は23位でした。 

幸福感の捉え方

ご存じの方も多いと思いますが、私たち日本人とアメリカ人での幸福感の捉え方に違いがあることが報告されています。ただし、安全や健康などは、人生において幸せの共通性があります。マズローの「基本的欲求が満たされていること」として定義されることが多いようです。

幸せの求め方には、人それぞれで、競争社会を勝ち進むことや、誰からも称賛されることや、莫大な財産を築くことや、穏やかな人生を過ごせることや、早く戦争が終わって普通に暮らせることなど、様々な環境や状況によっても変わります。

アメリカでは

幸福な人物とは、若く健康で、良い教育を受け、収入が高く、外交的、楽観的で、自尊心が高く勤労意欲があって…と、良いところがたくさんあることが幸福だとされている。これは、社会心理学の教科書に幸福の定義として掲載されているものとあります(Myers & Diener.1995)。

さらに掘り下げてみると、アメリカでは、個々人が「神に選ばれた者」と自覚して、それを証明するために懸命に働くことが人生の目標であり、「善」だという価値観が存在するというものです(Weber,1995)。

つまり幸福を得ていることは自分が「神に選ばれた者」であると証明しますが、幸福感の欠如は、「神に見捨てられた失敗者」とみなされてしまうと感じるのかもしれません。

そう考えるとポジティブ思考の強いアメリカ社会では、「わたしは幸福である」と言わなければならない「同調圧力」が、もしかするとあるのかもしれません。

日本では

2012年に発表された論文「幸福感の国際比較研究(子安・楠見,・Carvalho Filho・橋本・藤田・鈴木・大山・Becker・内田・Dalsky・Mattig・櫻井・小島,2012)」で、幸福感として「人生満足度」を採用した結果、13か国中、日本(13位)、韓国(12位)と特に幸福感が低い結果となった

このことから「人生満足度」を指標とする幸福感について国際比較を行った。この研究報告の中で、アメリカ ヴァージニア大学の大石(2009)は、両国の幸福感の低さの共通要素にふれている。

それは、日韓両国が一流大学・企業を目指すエリート主義の社会であり、一度失敗するとやり直しがきかないという意識が強いということである。また上下関係や世間の目を意識して生きなければならないため、やりたくないけれどやらなければならないことに費やす時間が欧米諸国に比べ多い。

このことは日本人が、社会に受け入れられるために、自分をその枠に合わせ生きていく傾向があり、必然的にポジティブ感情よりもネガティブ感情が大きい状態で生きていることを示唆している。

日本社会では、「求められる規範の枠に合わせなければならない」という同調圧力によって、幸福感が低くなる傾向が示唆されるのでしょう。

時代の中に見る それぞれの幸せの捉え方

冒頭で、「自分たちは親世代より不幸せだ」と回答した者が29歳以下の若者は約35%、30代は約30%、40代は35%といった結果を見て、何をもってそう認識したのかに、興味を覚えました。

彼らの親世代は50代~70代でしょうか。たしかに戦後の日本の復興のために、彼らは身を粉にしてバリバリ働いていたわけです。たしかに活気のある時代で高度経済成長と言われていました。でも彼らは会社に自分の人生を託した人たちでした。しかし、リーマンショックなど激動の時代になり、不確実な今を過ごしています。もう少し世代が上になる私の母は、戦争体験者でした。彼女の青春時代は戦争によって無かったと悲しそうに語っていました。

幸せの形は、ひとり一人の個人的環境や社会環境によってみんな違うということです。それも、あなたの捉え方次第で、幸せにも不幸せにもなっていきます。

あなたの幸せの捉え方は、どうでしょうか?

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Portrait of happy young woman relaxing on a lovely summer day, playing with dandelions

世界一幸せの国の人々に、あなたを「幸せにしているものは何か?」と訊いてみた!

ところで、世界一幸福感が高い国となったフィンランドに興味を持った、ストックホルム商科大学経営戦略およびマーケッティング学部教授のミカエル・ダレーンが「幸せにしているものは何か?」について調査していました。

フィンランド人の“幸福度の高さの謎”を解くことに大きく期待して、1000人以上のフィンランド人に日記をつけてくれるように頼んで、仕事、健康、人間関係、余暇など、あらゆる面で幸福について、毎日幸福度(0~10)を評価してもらうというものだった。しかし、どう分析しても何が特別なのかを説明できる明確なパターンは見つからなかった。むしろ、数週間後には、すべての尺度でゆっくりと下がっていった。

つまり、どれだけ幸福なのかを考えて、幸福度尺度を繰り返し評価し記入すればするほど、幸福度が下がっていくことが分かったというものだった(ミカエル・ダレーン,2022)。

幸せの意味

幸福を英語では、Happinessと訳されるが、Happinessの ”hap”は、「チャンス」とか「運」という意味をもつ古い語源から成り立っているそうで、どうも、幸福は、「思いがけなく偶然にやってくるもの」と理解した方が良いようです。私たちも、この世に何気に生まれてきていますから、幸せも何気にやってくると理解したほうが楽しいかもしれません。

前野(2013)は、幸せに寄与する4因子「やってみよう因子」「なんとかなる因子」「あなたらしく因子」「ありがとう因子」を挙げています。開放的に、楽観的に生きていくということのようです。

わたしは、「今を大切に、味わいながら生きている」ことが幸せだと思っています。太陽の温かさや、そよ風の気持ち良さを感じる、人と共に社会の役に立つ・・・・。幸せを引き寄せる言葉は、“幸せの4因子” の “ありがとう“から始まるように思います。

なぜって?「ありがとう」と言われた相手はもちろん幸せな気分になりますが、「ありがとう」と言ったあなた自身も、幸せな気分になっているものです。

相互の関係性を生みだす「ありがとう」って、素敵な言葉だと思いませんか? お互いが幸せな気分になるのですから。大事にしていきたいですね。

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お読みいただき「ありがとう」ございました。

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引用文献:<内田由紀子(2020)、『これからの幸福について 文化的幸福観のすすめ』株式会社 新曜社>

参考文献:<大石繁宏(2014). 幸せを科学する  株式会社 新曜社>

参考文献:<子安増生・楠見孝・Moises Kirk de Carvalho Filho, 橋本京子・藤田和生・鈴木晶子・大山泰宏・内田由紀子・Carl Becker,David Dalsky, Ruprecht Mattig, 櫻井里穂・児島隆次(2012). 幸福感の国際比較―13か国のデータ―  Japanese Psychological Review , 56,  70-89.>

参考文献:<前野隆司(2013). 幸せのメカニズム 実践幸福学入門 講談社現代新書>

引用文献:<ミカエル・ダレーン(2022)、『幸福についての小さな書』 訳者:中村冬美・柚木ウルリカ サンマーク出版>